329.腕の中で(不二切)
 不思議な、感覚。
 自分より華奢な人を力強いと感じて。しかも、初めはもの凄く嫌いだったのに。今は安らぎすらも感じてる。
「……不二サン」
「ん?」
「オレの何処、好きになったんスか?」
「…………赤也は、僕の何処を好きになったの?」
 訊く度に、不二サンからはいつも同じ言葉しか帰って来ない。でも、その不二サンの質問に、分かっててもオレは上手く答えられない。未だに、不二サンの何処を好きなのか、説明する言葉が見つかってない。だから、不二サンの答えを聞いて参考にしたいのに、不二サンはオレが答えるまで、きっと教えてくれないだろうから。いつまで経っても、オレは不二サンの何処を好きなのか答えることが出来ないし、不二サンがオレの何処を好きなのかを知ることも出来ない。
 普通なら少しくらいは気にするモンなんだろうけど、不二サンはそう言った理由みたいなのは全然気にならないみたいで。この状況をもどかしく思ってるのがオレだけってのが、何だか負けた気がしてしまう。
「ケチ」
「でも、好きなんでしょう?」
 呟くオレに、不二サンはクスクスと微笑うと、回した腕に力を入れた。体を密着させ、唇を重ねる。それだけで、オレの機嫌は上向きになるから不思議だ。
 天才と呼ばれ、努力なんか無縁みたいな涼しい顔でいつも試合をしてて。そんなんだったから、触れることは愚か、その姿を見ることすら嫌だったのに。
「……好きっスよ。不二サンも、オレのこと好きなんスよね?」
「勿論。どんな赤也でも、好きだよ」
 言いながら目を細めて優しい笑みを見せると、不二サンはもう一度オレにキスをした。
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