331.袖(不二リョ)
 不二先輩は、身長の割に歩くのが速い。俺もそれなりに歩くのが速いんだけど。先輩はそれ以上だ。多分、身長差以外のものもあるんだと思う。それに、ここ、人込みだし。
「ちょっ」
 待ってくださいよ。そう言おうとしたけど。何かそれだと負けてる気がするから止めた。でもだからって、手を繋ぐのも恥ずかしい。
 けど。そんなこと考えてる間にも、先輩はどんどん先に行って…。
「ん?」
「え?」
 突然足を止めると、先輩は振り返った。分からず見上げると、先輩は俺と目を合わせた後で、視線を更に下に動かした。その先を追って、俺も視線を動かす。
「………あ」
 自分でも、気付かなかった。俺は無意識に先輩の袖をギュッと掴んでいた。恥ずかしくなって、慌てて手を離す。
「少し、歩くの速かったかな?」
「……別に。速くなんてないっスよ」
「そう?ならいいけど」
 俯いたまま呟く俺に、先輩は微笑いながら頷くと、また歩き出した。けど、俺がおいて行かれることは、もうなかった。
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