339.約束(不二塚)
 悪魔との契約。そんな、イメージだ。
 ただ違うのは、売ったのは魂ではなく肉体だということだけ。
「っあ…」
 不二の舌や指が、オレの体を這う。その部分から、オレは悪魔に変わっていっているような錯覚に陥る。
「手塚。好きだよ」
 囁いては、オレの体をくまなく探る。過ちや幻だと錯覚させない為に、無数の痕をつけながら。
 どうしてこんな事になったのか。いや、今までこんな事にならなかったのが幸運だったのかもしれない。
 オレと越前が付き合っていると言う事は、それまで誰にも秘密だった。勿論、バレてもいなかった。互いに、周りからはテニス以外に興味が無いように見えていたから。一緒に居たとしても誰もそんな風に勘繰っては来なかった。第一、男同士だ。
 いつまでもバレないと思うと、多少冒険をしてみたくなる。それを、不二に見られた。写真にも撮られた。
 そして…。
「やっと、手に入れた。好きだよ、手塚」
「……オレはお前の物ではない。勘違いするな」
「例え一夜だけでも、今だけは、僕のモノだよ」
 たった一度だけ体を重ねる。そうすれば不二はあの日見たことは忘れるといった。本当にその約束を不二が守ってくれるのかは不安だが、今は、信じるしかない。
「手塚。力、抜いてね」
「っく、ぁ」
 無理矢理と言った感じで入ってくるもの。初めての感触。オレは大きく息を吐き、その異物感に耐えた。そんなオレを見て、不二が天使にも見間違うほどに綺麗な、悪魔の笑みを浮かべる。
「可愛いね。君のこんな姿、きっと越前でも知らないんだろうな」
 クスクスと微笑いながら、掻き回すように突き動かす。その度に、オレは上げたくもない声を上げていた。

 あれから、1ヶ月。
 不二から誘われる事は無かった。そして、オレの周囲にも変わりはない。本当に、約束を守ってくれてたようだ。
 ただ…。
「………不二」
「なんだい?」
「帰り、寄ってもいいか?」
「僕はいいけど。ここの所毎日だよ?体、大丈夫?」
「大丈夫だ」
 不二は誘わなかったが、あれからオレは毎日のように不二を誘っていた。勿論、越前との関係は壊れた。それでも、オレは不思議と後悔はしていなかった。
「手塚がそう言うのなら。いいよ。一緒に帰ろうか」
 クスリとあの夜と同じ悪魔の笑みを浮かべる。その顔に頬を赤くしながら、オレは差し出された手をしっかりと握った。
 本当に、悪魔との契約だったのだな。今更ながらに、思う。
 ただ違うのは、売ったのは肉体だけではなく、魂もだったと言うことだ。
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