340.不器用(不二真)
 じっと指先を見つめる視線に気づき、僕は顔を上げた。彼がソレに気付き、僕の眼を見る。何?と眼で問うと、いや、という呟きと共に眼をそらされた。また、僕の手を見つめる。
「器用だな」
「これくらい、誰だって出来るでしょう。ああ、真田は中学校に入ってから練習して、なんとか出来るようになったんだっけ」
 巻き終えたグリップテープ。その感触を確かめるように何度か握ると、立ち上がってラケットを振る。
「はい。出来上がり」
 ラケットを差し出すと、僕と入れ替わりに彼は立ち上がり、それを振った。感触を確かめるように、何度かグリップを握る。
「不思議なのだが」
 ラケットを持ったまま僕の隣に戻ると、彼は言った。
「不二にやってもらった方が、俺が自分でやるよりも手に馴染む気がする」
「気の所為だよ、それは」
 真面目腐った顔で言うから。僕は思わず微笑った。
「でもまぁ、不器用な真田がやるよりは、綺麗な出来であることは確かだろうけどね」
 グリップテープを変えていないもう1本の彼のラケットを指差す。当然だろう、と彼は言うと、僕にそのラケットを渡した。
 少しくらい情けない顔をするのかとも思ったけれど、彼は自分の手先が器用ではないことは理解しているようだった。何だかちょっと、つまらないけど。まぁ、らしいといえばらしいかな。
「何を微笑っているのだ?」
「んーん。何でもないよ」
 クスクスと微笑いながら言うと、僕は渡されたラケットのぐりぷテープも取り替え始めた。指先に彼の視線。
 横目で見るその顔は真剣そのもので。僕はまた、微笑った。
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