341.みちしるべ(不二橘)
「本当にこっちで合ってるのか?」
「って、この地図には書いてあるけど。あっ、ここ左だって」
「そういう事は早く言えっ」
 彼の怒鳴り声と共に、僕を乗せた自転車がカーブを描く。
 坂道でスピードが乗ってたから、体に負荷がかかって。僕は落ちないようにと腹筋に力を入れると、彼の背に頭をくっつけた。
「だってしょうがないでしょ。君の質問に答えてたんだから」
 曲がりきった所で、声を張り上げて言う。彼は何も返しては来なかったが、かわりに自転車の速度を緩めた。カサカサと音を立てていた手描きの地図が、大人しくなる。
 彼の妹に貰ったこの地図には、秘密のテニスコートの場所が描かれている。そこは少し寂れているかわりに、利用者が殆んど居ないんだそうだ。
「あ、その標識の所を、右ね」
 それにしても。
「よしっ」
 耳を澄ますと、彼の荒れた吐息が聞こえてくる。僕も、うっかり横向きに荷台に乗ってしまった所為で、さっきから腹筋が疲れてる。
「まだ着かないのかっ…?」
「まだ。もうちょっとみたい」
 果たして、こんな状態でテニスなんて出来るのか。
 まぁ、その時は。今回は場所確認って事にして、デートに切り替えても構わないんだけどね。
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