342.100円(不二リョ) ※ドリーマーに100のお題『029:100円』の続き
「また、足りない」
 部活を抜け出して。ファンタを買おうって財布だけ急いで持って自販機に来たけど。その中身の少なさに、俺は失望した。
 財布に金、入れてくるのを忘れてた。
 前回より価値は大きいけど、今回はコイン1枚。たった100円じゃ、何も買えない。校内の自販機なんだから、少しは安くしてくれてもいいのに。
「こら、越前!何サボってる!」
「うっ…」
 溜息をつこうとした瞬間、背後から部長の怒鳴り声がした。身を竦ませて、振り返る。
 けど。
「あ、れ?」
 そこに居たのは不二先輩で。
「ふふ。似てたでしょ、手塚の声マネ」
 振り返った俺に悪戯っぽく微笑うと、先輩は俺の帽子をとると、頭をくしゃくしゃってなでた。
「何で、アンタが居るんすか」
 見事にしてやられた俺は、いつまでも頭に乗せられてる手を払い、素っ気無く言った。帽子を返してもらおうと手を伸ばす。
「んー。リョーマがサボりに行くのが見えたから、さ。また、お金足りないみたいだね」
 俺の手を簡単に避けると、先輩は自分の頭に俺の帽子を乗っけた。似合う?って訊いて来る。
「それ。俺の汗まみれっスよ」
 先輩の問いには答えず、俺は言った。自販機脇のベンチに座る。
「そ。でも、残念。僕はリョーマの汗の臭い、結構好きなんだなぁ」
 クスクスと微笑いながら、頭に乗せてた帽子を顔に持っていこうとするから。
「っやめてください」
 慌てて俺は帽子に手を伸ばした。けど、また避けられてしまう。
 くっそぉ。
「ね、リョーマ。これからちょっと、僕とファンタ、買いに行こうか」
「……奢ってくれんスか?」
「んーん。僕も今持ってるのはコレだけだから」
 そう言うと、先輩は気がつけばずっと握ってた左手を広げた。そこにあったのは、俺と同じ銀色のコイン1枚。
「100円じゃ、ファンタなんて買えないっスよ」
「それが、買えちゃうんだなぁ」
 左手を握り、そこから人差し指だけをピンと立てると、先輩は学校の外を指差した。
「あの向こうに駄菓子屋さんがあるんだけどね、そこで、ファンタ売ってるんだ。80円で」
「うっそ」
「瓶に入ってる奴だけどね。どう?これからちょっと部かつ抜け出して、行かない?」
 楽しげな口調で言うと、先輩は俺の返事を訊かずに手を取った。慌てて、その手を引っ張る。
「行かないの?」
「だって、そろそろ戻らないと今度こそ本当に部長に…」
「怒られないよ、僕と一緒なら。ね、ちょっとしたスリル。行かないなら、僕ひとりで行くけど?」
 俺から手を離し、フェンスに駆け寄る。どうする?と問いかける先輩に、仕方ないっスね、と呟くと、俺は先輩よりも先に、フェンスを駆け上った。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送