344.レシピ(不二橘+杏)
「ねえ、今度アレ、やってよ」
 テレビを指差し、不二は悪戯っぽい笑顔で言った。

「と、言うワケで。オーダー、僕の好きな食べ物」
「ウィー、ムッシュ」
「……ウィー、ムッシュ」
「そうそう、そんな感じ」
 ケタケタと微笑う不二に、つられるようにして、杏も微笑った。微笑ってないのは、俺だけだ。
「つまらなそうだね、橘」
「当たり前だろ。何で俺がっ」
「じゃあ、棄権する?」
「そしてたらあたしの勝ちよ」
「……分かった」
「じゃ、コレつけてね」
 俺が頷いたことに、不二は満足げに微笑うと、俺に向かって何かを投げた。それを受け取り、広げる。
「何だ?」
「エプロン。家庭科でつくってて。今日出来たから、持ってきた」
「不二さん。あたしの分は?」
「ごめーん。これは将来の奥さんの分しかないんだ」
 顔の前で両手を合わせて謝る不二に、杏は、仕方ないわね、と言って微笑った。
 もしかして、除け者は、俺か?
「ゴホン。言いから、さっさと始めるぞ。ほら、杏も位置につけ」
「あれ?お兄ちゃん、気乗りしないんじゃなかったの?」
「妬いてるだけだよ。可愛いんだから、橘は」
「っ。お前、杏の前で…」
「良いじゃない、別に。可愛いよ、お兄ちゃん」
「杏まで」
「ほらほら、制限時間、もう10分も過ぎちゃってるよ。急いで急いで」
 クスクスと微笑いながら、いつの間にかソファに座っていた不二が言う。
「……お前は楽でいいな」
「ふふ。そんなことより、いいの?」
 振り返る俺に、不二が指差す。その方向を見ると、いつの間にかさっきまで微笑っていたはずの杏が、メモらしきものを見ながら、真剣な顔で調理に取り掛かっていた。
「お兄ちゃん。勝った方が、来週不二さんとデートだっていうの、忘れないでよ」
「……分かってる」
 俺を見ること無く言う杏に、溜息混じりに頷くと、深呼吸をした。腕を捲くり、包丁を持つ。
「例えお前相手でも、手加減はしないからな」
「うわーっ、お兄ちゃん、こわーい」
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