345.使用前・使用後(周裕)
「あにっ、もっと…」
 せがむ裕太に、唇を近づける。
「んっ」
 これまでだったら僕にされるがままだったのに。今はこうして自分から舌を絡めてくる。
 人間、幾らでも変わるものだな、と思う。
 いや、それとも。これが裕太の本来の姿なのかもしれないけど。

 媚薬なんてものは、ある種の催眠効果で。実際に感じやすくなったりするわけじゃないって。何かの本で読んだ。
 それが本当なのかどうなのかは知らないけど。まぁ、そんな気もしないでもなかったから。半分だけ、信じた。
 ある種の催眠効果、という部分だけ。
 それだったら、自分でも媚薬を作ることが出来る。そう思った。
 そう思って、色々考えていたら。以前興味があって手に入れていたものの存在を思い出した。
 裕太には、少し可哀相だと思ったから、使わなかったものたち。
 それらを枕の下に無理矢理押し込み、僕はいつものように裕太と体を重ねた。
 優しい言葉をかける僕に、拒んだフリをする裕太。そこまでは、いつもと同じ。
「兄貴っ、やめろよ」
 けど。はっきりと裕太が拒絶の言葉を口にしたのを切欠に。僕は豹変したフリをした。
 乱暴に裕太の体をベッドに押しつけ、枕の下に隠していた様々な拘束具で、裕太の手や足を縛り、言葉すらも奪う。
 急変した僕に、裕太は驚いて何も考えられない状態に陥っていたから、拘束する作業はいたって簡単だった。総てが終わってから、裕太が本気で暴れだす。
 けど。もう遅い。
「やめろって、何?拒めると思ってるの?まさか。そんなはず無いよね。だって、体はこんなにも僕を求めてるんだから」
 もっと素直にならなきゃ。出来るだけ狂気を含んだ声で囁き、裕太の体を、僕のつけた痕をなぞるようにして舐め上げる。
 今までの、裕太の抵抗するフリが、僕の中に何かを蓄積させ、それが爆発した。そんなシナリオ。
 勿論、裕太が、やめろ、だとか、いやだ、って言うのは、ただの喘ぎと同じ意味だって分かってるから。実際には何も蓄積されてないし、だから、爆発なんてするはずがない。
 けれど。乱暴にその奥を突き続ける僕に、裕太は僕の用意したシナリオをあっさりと信じてしまっていた。

 あの拘束具たちは、あの日以来使っていない。それ以降、裕太と体を重ねる時は、今まで通り、優しく接している。
 ただ、あの日を境に、裕太は拒む事をしなくなった。まぁ、元々フリだったのだから、それ自体は大した変化じゃない。ただ。
「もっと…お、ねがっ…」
 初めは、僕が再びああいった状態になるのが怖いからだと思ってたけど。
 僕を誘う様は、いっそ滑稽なくらいで。
 箍が外れたのか、それとも目覚めたのか。まぁ、そんなこと。どうでも良いんだけど。
「ふふ。裕太。大好きだよ」
 優しく微笑い、それとは反対に激しく突き上げる。
 裕太は、あの日以来、切れる事の無い媚薬を手に入れたかのように、貪欲に僕を求めるようになっていた。
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