347.オンリーワン(不二リョ)
 俺を膝に乗せて、俺の肩に顎を乗せて。いつもみたいに鼻歌を口ずさむ。初めはくすぐったかったけど、別に口を動かしてるわけじゃないし、もう慣れた。今だって、画面の向こうじゃ、俺はトップを独走してる。
 けど。先輩の口ずさむ歌がそれに変わった途端。俺はカーブをミスって壁に激突した。立て直してるうちに後続車に抜かれて。ムカつくから、手を伸ばしてゲーム本体のスイッチを切った。
「あれ?セーブしなくていいの?」
「いいっスよ。別に。つぅかセーブしても走行距離が加算されるだけだし」
「ああ。もうそれクリアしてるんだっけ」
「そーゆーことっス」
 肩から顎を上げて言うから、俺はそのまま先輩に寄り掛かった。今度は、顎を頭に乗せてくる。
 また、鼻歌。
「ねぇ。その歌、やめてくれません?」
「何で?」
「俺、それ嫌いっス」
「いい曲じゃない」
「虫酸が走る」
 俺が目指してんのは、オンリーワンじゃなくて、ナンバーワンなんだ。幾らテニスで独創的なプレイをしたって、勝てなきゃしょうがない。
 それに…。
 先輩の腕から抜け出し立ち上がると、俺は今度は向かい合うようにして座りなおした。まだ鼻歌をうたってるから。先輩の鼻を摘んでた。
「リョーマ、苦しっ…」
 苦笑しながら言う先輩の口を、自分のそれで塞いだ。
「ちょっ、とぉ。君からキスしてくれるのは嬉しいけど。それじゃあ僕、窒息するから」
「アンタがいつまでもそれ歌ってるからっスよ」
 摘んでた鼻から手を離し、もう一回、キスをする。すると、今度は先輩の方から深く重ねてくれた。
「俺、アンタのナンバーワンになりたいし」
「そう?僕は君のオンリーワンになりたいな」
 深く息を吐きながら呟いた俺に、先輩はまだまだ余裕の笑みを見せながら言った。その言葉に、また、腹が立つ。
「俺はイチバンがいいっス」
「僕は、君に、僕を他の誰とも較べて欲しくないな。一番だとか二番だとか、そういう次元じゃなくて。僕を僕として認めて欲しい」
 クスクスと微笑いながら、啄ばむようにキスをしてくる。俺は先輩の額を押し退けると、その肩に額を乗せた。
「……何それ。よく分かんないっスよ」
 肩に額を押し付けて呟く俺に、先輩はくすぐったそうに微笑うと、俺の方を掴んだ。引き離し、真っ直ぐに見つめてくる。
「まぁ、兎に角。リョーマは僕のイチバンじゃないけど。他の何とも較べられないくらい、大好きで大切だってことだよ」
 ね。と言って微笑う。よく分かんないっス、ともう一度呟く俺に、先輩は苦笑するとキスをした。
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