350.命(周裕)
 その手の小ささに初めて気づいたのが、いつだったのか。はっきりとは思い出せない。けど。
 多分その時、この小さな命を守りたいと思ったんだ。

 早くしろ、と目で催促する裕太に圧し掛かり、その手に、自分の手を重ね、絡める。
 僕よりも少しだけ大きな手。だけど、あの時のイメージはそのまま僕の中に残っている。
「……何、ニヤけてんだよ」
 見つめたまま何もしようとしない僕に焦れたのか、裕太が少し突き放すような口調で言った。クスリと微笑い、額に唇を落とす。
「裕太の小さな手、好きだよ」
「何言ってんだよ。兄貴の手の方が小さいじゃねぇか」
「うん。でも。裕太の手、小さいよ」
「?」
 わけが分からない。そんな顔に、クスリと微笑うと、今度はちゃんと、唇にキスをした。繋いだ手を深く絡め、それと連動して舌を深く絡める。
「ねぇ、裕太。僕はちゃんと裕太を守れてる?」
「何だ、今更。わけわかんねぇよ」
 問いかける僕に、裕太は少しだけ顔を紅くすると目をそらした。
 いつもは目をそらされるのが嫌なのに、今回だけは、助かったと思った。僕の顔が、少しだけ歪んだから。
 守ろうと決めたときから、ずっと一緒に居たつもりだった。なのに、裕太は僕の知らない所で、僕が原因で沢山傷ついてた。
 その事実を知ったのは、裕太がルドルフに行ってから。
「ごめんね」
「だから。なんなんだよ、さっきから」
 穴らだけの僕の言葉に、裕太は苛立ったような口調で言うと、心配そうな目で僕を見つめた。そんな顔、させたいわけじゃないのに。
「何でもない」
 笑顔を作り、首を振る。もう一度、触れるだけのキスをすると、ただ、と僕は続けた。
「好きだなって思っただけだよ。大好きで、大切で。これからもずっと、守って行きたいなって」
 僕のことで傷ついたのに。裕太は結局、それでも僕と一緒にいることを選んでくれた。
 あの日、自分よりも小さな手に触れた時みたいに。ぎゅ、と強く、僕の手を握って…。
「いい加減、弟離れしろよな」
「弟離れ出来ても。きっと僕は裕太離れは出来ないな」
「……何だ、それ」
 わけわかんねぇよ。呟いて、裕太が微笑う。それにつられるようにして微笑いながら、僕はどんな事があっても裕太を守ろうと、改めて、思った。
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