352.沈黙者(不二幸)
 ページを捲る音だけが、さっきから聴こえている。
 ずっと窓の外を見ていたけれど。強い風に視線を戻すと、目の端に綺麗な白い手が映った。
 それを遡り、その蒼い目を眺める。
 俺の視線に気づいたのか、顔を上げると、何、とその目で問いかけてきた。何でもないと言うかわりに首を横に振る。すると、再び俯いた。
 それでまた、本の世界に戻ってしまうのだろうと思ったが。
 俺の予想とは逆に、小さな音を立てて本を閉じると、椅子から立ち上がった。ベッドの端に座り、俺の手をとる。
 何、と今度は俺が目で問いかけた。すると、俺がさっきしたように、何でもないと首を横に振って答えた。
 その様が何故か可笑しくて、俺たちは微笑った。
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