355.後少しで完成です(不二跡) ※『245.ふるさと』シリーズ(?)
「まだ?」
「……もう少しだ。いいから、黙って見てろ」
 僕の熱視線を嫌でも感じているのだろう。彼は赤い顔で振り返ると、乱暴な口調で言った。
「はいはい」
 クスクスと微笑いながら、頬杖をつき直す。時計を見ると、彼が台所と言うには広すぎるその場所に立ってから、2時間が過ぎようとしていた。
 よく、飽きないよな。自分でも、飽きれる。彼にも、途中、何度か言われた。今はもう呆れられてしまっているけれど。
 暇つぶしにと持ってきた本は、バッグに仕舞ったまま。僕はずっとエプロン姿を眺めている。
 お袋の味から始まって、色々作ってもらったけど。どうやら彼は本格的に料理にはまってしまったらしく。今日は、僕の為にご馳走を作ってくれるらしい。
 本当は完成してから僕を呼ぶ予定だったみたいだけど。跡部が僕の為に頑張ってくれてる姿、見たいな。なんて。ベッドの中、真面目な顔をして僕が頼んだから。彼は予定を変更せざるを得なくなった。
 困ったように、でも心なしか嬉しそうに、赤い顔で頷いた彼を、はっきりと覚えてる。
 ここから見える彼は後ろ姿だけれど。その白い首筋を見るだけで、僕は案外充分だったりする。僕の視線を感じた彼は、今、どんな心境なのだろうと考えるのも、また楽しい。なんて。随分と変態じみてるけれど。
「おい、不二」
 色々思い浮かべてニヤけていると、彼が妙なものでも見るような顔で僕を振り返った。悪態をつかれるかな、と思ったけど。
「後少しで完成だから、向こうで待ってろ」
 目が合って微笑った僕に、彼は顔を真っ赤にするとそう言った。
「了解」
 楽しみだなぁ。呟きながら、立ち上がる。それを見た彼は、僕に再び背を向けた。
「ああ、そうだ」
 その背中に思い出し、呟く。
「何だよ?」
「デザートは勿論、跡部景吾で良いんだよね?」
「っ。……勝手に言ってろ、バーカ」
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