359.見えないもの(不二忍)
 分からない、ことが1つだけ…ちゃうか、幾つもある。
 隣ですやすやと寝息を立てて寝とる男。この顔だけ見とったら、天使やないかと誰もが間違えるっちゅう話や。実際は、悪魔以外の何でもない。
 それにしても。俺はいつまでこんな事してんねやろ。
 余りにも穏やか過ぎる寝顔に腹立って、その鼻を摘んでみる。すると、不二の口が微かに動いた。その唇がなぞった名前に、余計に苛立つ。
 不二にとっても俺にとっても、初めはスリルを求める為の行為やった。それが、俺はそのまま不二に惚れ込み、不二は俺らの関係を恋人である手塚に打ち明ける事によって、行為の目的は互いに違うもんになった。ま、俺は想いを不二に打ち明けてへんねんけど。
 どっちにしても、なら何でまだこんな行為を続けてるんかって話や。
 俺の方の理由は簡単。好きやから。それだけや。
 だけど、不二の方の気持ちがさっぱり分からへん。
 俺の事好きなんかと思ったけど、どうやらそれはなさそうやし。だからといって、体の相性がええんかっても思ってみてんけど、それもどうも違うらしい。
 じゃあ、だったら何で?
 その答えは、体を重ねてる時に一番見えそうな気がするんやけど、回数を重ねれば重ねるほど見えなくなっていってるような気がしてくる。
「分からん奴やな」
 天使のような寝顔に毒づく。すると、それが祟ったのか、突然後ろに痛みが走った。そのまま、枕に顔を埋める。
「悪魔がっ」
 頭の中をちらつく不二の姿に毒づくと、俺は再び眠りについた。
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