362.和(不二幸)
「また、白」
「しょうがないじゃない。似合うんだから」
 睨み付ける俺に構わず、不二は微笑うと手を引いて歩き出した。
「それに、嫌なら着てこなければいいでしょう」
「着なければ一緒に行かないと言っただろ」
「あれ?そうだっけ?」
 クスクスと微笑いながら、俺の手を強く握る。
 少し、時期の早い夏祭り。夕暮れ時の風は、まだ肌寒い。
「普通、藍色とかそんな感じだろ。浴衣と言ったら」
「そう?でも、似合ってるよ」
「だけど。何か、死装束みたいじゃないか?」
「まぁ、それでもいいかもね」
「いいかもって…。まぁ、ここまで来たら仕方が無いけど」
「そうそう。人間、諦めが肝心だよ」
 溜息を吐く俺に、不二はまた嬉しそうに微笑った。歩調を少しだけ緩め、人込みの中へ入っていく。人込みが苦手で、極力そう言ったところへ行かないようにしていた俺は、はぐれないように不二の手をしっかりと握った。それでも、人の合間を縫っていく不二とは反対に、俺はすれ違う人にこれでもかと言うくらいにぶつかる。
「ねぇ、幸村」
「っに?」
 人の流れから少し外れると、溜息を吐いた俺に、不二は微笑いながら言った。繋いでいた腕を引かれ、不二に抱き締められる。
「乱れた浴衣って、何か色っぽいね」
 体を離し、俺を覗き込むと、不二はまた微笑った。その顔と隙間から見える肌に、頬が赤くなる。
「……幸村?」
「不二は、乱れて無くても色っぽいな」
「え?」
 意外とも思われる俺の言葉に止まった不二に、俺は微笑うと、俺と同じような色に染まったその頬にキスをした。
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