この鳥籠は何のため?
 君を逃げないように閉じ込めておくため?
 それとも。
 それとも――。

 踏み出す度に、不快なほどの靴音が反響する地下への階段。
 ここを通るとき、僕の中には答えの出ている疑問がいつも思い浮かぶ。
 答えが出ているのだから疑問では無い気がするが。それでも、疑問には違いない。だって、答えを彼の口から直接聴いていない。僕の疑問に答えるのはいつだって……。
「……不二、か」
 鉄の扉越しに、敵意剥き出しの声がする。
「そうだよ」
 微笑いながら答えると、僕は扉を開けた。鍵を開けるフリをして。
「というか、ここに来るのは僕しかいないんだよ。誰も君を助けになんて来ない」
 ギギ、と重い音を立てて開く扉。現れる、薄暗い部屋。遥か上方に取り付けられた格子窓からは、月光が降り注いでいた。それが、彼の肌をぼんやりと照らしだす。
「それとも、そんなに僕のことを待ち焦がれてた?」
 クスクスと微笑いながら、彼の寝ているベッドに近づいた。誰が待ってなんか。僕から顔を背けるようにして寝返りを打つと、彼は呟くように言った。
「嘘はいけないよ」
 ベッドの隅に腰を下ろす。ギシ、という音に彼の身体が僅かに反応した。それでも、あくまで平静を装っているから。
「こんなに僕のことを欲しがってるくせにさ」
 彼の耳元で囁くと、昨晩僕がつけた痕を、指でなぞった。彼の口から、熱い吐息が漏れる。
 嘘吐き。
 触れているだけなのに早くも熱を持ち始めたその身体に向かって、僕は呟いた。睨みつけるような彼の眼は、それでいて期待に潤んでいる。
 この鳥籠は、何のため?
 その疑問に答えるのは彼の身体。そして、答えを聴く度に、僕は彼に溺れていく。
 ベッドに乗り、彼に圧し掛かる。嫌がるフリをしているその手を束ねると、ベッドへと押し付けた。彼の手首から伸びている、繋がっていない鎖が、ジャラ、と音を立てた。
「いい加減にしろっ」
 僕の唇から逃げるように彼は頭を振ると、言った。何か言葉を続けようと再び開く唇を、今度こそ逃がさないようにしっかりと塞ぐ。
 長く、深く唇を重ねていると、いつものように彼は僕の首に腕を絡ませた。淫らに身体を振り、求めるように舌を絡めてくる。その彼の行動に、僕は口元を吊り上らせて微笑うと、応えるように更に深く唇を重ねた。ただ痕を辿るだけだった指を、望む刺激を、新たな刺激を与えるために彷徨わせる。
「っあ。不二っ。ふじ…」
 長い口付けのあと、やっと解放された唇で僕の名を呼ぶ。熱に浮かされながら、うわ言のように、何度も。
「好きだよ」
 きっと、この僕の想いなんて、届いていない。それでもいいと、僕は彼の名を呼び、好き、と呟き続ける。まるで、それが義務であるかのように…。

「好きだよ、手塚」
 朝の白い光が差し込んでくる。何も纏っていない彼の身体は、僕のつけた痕と互いのモノで月光の下の彼とはまた違う輝きを見せていた。
 穏やかな寝息を立てている彼の額に、そっと唇を落とす。
「もう、行くよ」
 彼の腕に嵌められた枷にもキスをし、呟く。そこから長く垂れている鎖は、部屋の隅で途切れている。扉だって、初めから鍵なんて閉めてない。そのことに、とっくに彼は気付いている。だから、逃げようと思えば、いつでも逃げ出せるんだ。
「ねぇ。この鳥籠は何のため?」
 初めから、僕にとっては無意味な鳥籠。だったらこれは、何のためにある?
 無意味な問いかけ。理解っている。この鳥籠が、本当は誰のためのもので、何のために存在しているのかなんて。
 彼だって、それに気づいていない筈は無い。だって本当は。この鳥籠は…。
「この鳥籠はオレのものだ。不二、お前を逃がさないようにするためのな」
「…手塚、起きて――?」





不二塚ではお馴染み(?)の地下室。浮かんでくる疑問は飲み込んでくださいね(殴)
入り口はダークに。出口は甘く(笑)
やっぱり不二塚から始めねばですよね。
お題。頑張ります。


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