「…ぁあ、朝かいな」
 ブラインドの隙間から覗く陽で、忍足は目を醒ました。気だるい体をなんとか起こし、脱ぎっぱなしにされていたシャツに袖を通す。
「……っ」
 後ろに感じる痛み。忍足は顔を歪めると、隣の安らかな寝息を立てている不二に視線を移した。
 寝顔だけなら、ごっつかわええんやけどな。
 昨晩のことを思い出し、忍足は溜息をついた。と同時に、また後ろに痛みを感じた。
「……しゃーないやっちゃなぁ」
 呟いて、不二の上に跨るとその体を揺すった。
「おい、朝やで。はよ起きや」
「……ん」
 頬を軽く叩く忍足の手を払い除けると、不二はその首に腕を回して抱き寄せた。
「何すっ…」
 忍足がそれを避ける間もなく、唇が重ねられる。
「もっ、やめ…」
 あまりの長さと深さに、忍足が身じろぐ。すると、不二はあっさりと唇を離した。その代わり、忍足を強く抱きしめる。
「不二…」
「…て、づか」
「〜〜〜っ。寝惚けんのもええ加減にせえっ」
 不二の口から出てきた名前に、忍足は怒鳴りつけるとその頬をギュッとつねった。薄っすらと開いているだけだった不二の目が、徐々に覚醒する。
「………ああ、忍足か。おはよ」
「『おはよ』やあらへんわ。阿呆」
 目を醒ましたとはいえ、呆けたような声を出す不二に、忍足は呆れたように呟いた。もう一度だけギュッと頬をつねる。
「痛いなぁ」
「目の前にオレがおんのに、そないな名前出す奴が悪い」
「だってしょうがないじゃない。いつも隣にいるのは手塚なんだから。それに、もし僕の方が先に起きてたら、君が跡部の名前を呼んでたかもしれないよ」
「……それは有り得へんな」
「何で?」
「跡部の奴、自分と再会してからオレにはナニもさせてくれへんのや。それに、オレと一緒におっても、どっか呆けとって。多分、不二んこと考えとんねや」
 だから、お前潰したろ思て来たのに。このザマや。ミイラ捕りがミイラっちゅーんは、こういうこというんやろか。
 その綺麗な顔を見つめ、溜息をつく。初めは酷い目に合わせるつもりだったのが、逆に自分が酷い目に合い。そしてそのまま不二にはまった。だから、忍足が不二と肌を合わせるのはこれが初めてではない。跡部と手塚の間を上手く縫って、二人がこうして会うのは、既に五度目だった。
「……そう。それは悪かったね」
 言葉とは裏腹に不二は愉しげに微笑うと、手を伸ばして忍足にキスをした。また深いものがくるのかと忍足は少し構えたが、不二はそれ以上入り込まず、触れるだけですぐに離れた。
「でも、安心して。跡部には手は出さないから」
「何でや?」
「跡部は、大切な友人だからね。そういう関係にはなりたくないんだ」
「……跡部が迫ってきてもか?」
「遊びだったら良いけど、本気だったら断るかな。僕だって、手塚を裏切りたくないし」
 裏切りたくないという不二の言葉に、忍足は驚いた。その言葉には、まだ不二は手塚を裏切ってはいないという意味がこめられていたからだ。
「ちょい待ち。今この状態は、手塚を裏切ってることにはならへんか?」
「ならないよ。本気じゃないし。それに、手塚だって知ってる関係だしね」
「なっ…」
 手塚も知ってるやと?
 忍足は既に軽い混乱状態に陥っていた。本気じゃなければ裏切ったことにはならないと言い切った不二にもだが、何より、自分と不二との関係を知っていながらもそれを許している手塚にだ。
「君だって、どうせ遊びでしょう?」
「…………」
「忍足?まさか、本気じゃないでしょう?」
「……あ、ああ。勿論、本気なわけあらへんわ」
「そう。なら良いけど」
 良くないわ、阿呆。
 確かに、オレは初めに不二を犯りに行ったときはそれが景ちゃんを裏切る行為だとは思わへんかった。せやけど、今は違う。もう何度も自分の意思でこいつと体重とる。これは立派に裏切りや。だが、その気持ちは、自分の本当の相手を裏切ったっちゅう気持ちは不二も同じやと思っとった。オレたちは共犯者なんやと。
「じゃあ、何のためにお前はオレの誘いに乗っとるん?」
「………忍足?」
「いや、すまん。今のは忘れてくれ」
「変なの」
 慌てて顔を背けた忍足に、不二は愉しげに微笑った。そのあとで、改めて忍足の姿を眺め、クスリと不気味に微笑う。
「な、何や?」
「いやぁ。その格好、なかなかそそるなって思ってさ」
 その不二の言葉に、忍足は自分の姿を見返した。シャツだけを中途半端に着ただけで不二の上に跨っているという格好。それがどんなに淫らな姿であるかということに気づいた忍足は、思わず顔を赤くした。
「ね、どうせ今日はオフなんだし。一日中付き合ってあげるよ」
「ちょいまっ…」
「そうそう。遊びは愉しいからするんだよ。それ以上でも、それ以下でもない。だから、その先には発展しない。手塚はそう言った僕の性格をちゃんと分かってくれてるから。だから、許してくれてるんだ」
「…………」
「だから今日は、心行くまで愉しもうよ。ねっ」
「………わぁっ」





忍足の口調はダウンタウンの浜ちゃんのイメージ。
いまいち、大阪弁と関西弁の区別がつきません。京都訛もたまにわからなくなる。
すみません。茨城県民(NOT茨木)なもので。
ちなみに。忍跡(跡忍ではないです)、不二塚前提です。
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