「ったく、何なんだよ」
 ベッドに座り、兄貴を見上げる。兄貴は歪んだ笑みを見せると、オレから目をそらした。
 夏休み、オレはこっちに帰ってくる予定は無かったのに、突然兄貴に呼び戻された。しかも、オレが帰ってきたその前日から二週間、母さんと姉貴は親父の所に旅行ときた。嫌な予感がした時には既に家の中。逃げ場は、無い…。
「裕太に、懺悔しようと思って」
「……え?」
 兄貴の言葉に、オレは冗談かと思った。兄貴はいつも自信に満ちていて。そんな兄貴が、悔いた表情でオレを見つめているなんて。
「僕が浅はかだったんだ」
 呟いてその場に跪くと、兄貴は深呼吸をして、話し始めた。
 裕太に対する想いが、兄弟愛を越えたところに在ると気づいたのは、まだお互い、小学生の時だった。僕たちは幼かったけど、それでも、この想いが何よりも強いものであり、そして何よりも禁じられたものだということくらいは分かった。だから僕は、ずっとそれを胸の奥に閉じ込めて暮らしてきたんだ。
 だけど、中学に入って。裕太も、きっと気付き始めたんだと思う。僕の異常な想いに。だからルドルフへ行ったんだろ?裕太は僕と比べられることを口実にしてたけど、僕には分かったんだ。だって、裕太は優しい子だから、そういう時は素直に僕に対して喜んでいてくれたから。以前に、大会で優勝した僕と、準々決勝で負けてしまった裕太を親戚が比べていたときも、裕太は僕に対して僻むどころか、僕を誇りに思うって言ってくれたしね。
 正直、裕太がルドルフに行ってしまうことに、僕は反対だったんだ。傍に居られなくなるっていうことも在ったんだけど、裕太の身に危険が迫ってきたときに守ってやれなくなるから。それが一番辛かった。でも、裕太はそれが一番ウザったかったんだよね。だから僕は、裕太のことを頭から追い出そうと思って、色々なヒトと付き合ったんだ。
 そして、越前リョーマに出会った。
 彼を見たとき、驚いたよ。その行動が、余りにも裕太に似ていて。それで僕は、彼と付き合うことにしたんだ。彼も僕を好いていてくれたみたいだしね。楽しかったよ。裕太と恋人同士になれたら、きっとこんな感じなんだろうなって思った。
 そこで、思い知らされたんだ。僕が好きなのは、唯一、裕太だけなんだって。それ以外じゃ、駄目なんだって。たとえ魅かれることがあったとしても、それは総て、裕太に繋がってるんだって。だから…。
 言葉を切ると、兄貴はオレから眼を逸らし俯いた。そのまま、暫く沈黙が続く。
 兄貴がオレのことを好きだということには、薄々気づいてはいた。だが、確信は無かった。ルドルフに行ったのは確かに兄貴の干渉がウザかったからだ。けれど、兄貴の気持ちから逃げようとしたわけではないと思う。だって、オレは今日の今日まで、兄貴の本当の気持ちを知らなかったわけだし。ただなんとなく、二人きりになってはいけないという気がして、オレはなかなか家には帰れなかったし、兄貴との距離を置いていた。ということは、もしかしたら、心のどこかで気づいていたかもしれないな、兄貴の想いに。
 だが、ちょっと待てよ。だとしたら、二人きりの今、もしかしてオレは凄くやばい状況にあるんじゃないか?
「あ、兄貴。あのさ…」
「だから僕は、越前と別れたんだ」
 逃げようとするオレを押さえつけるかのように見つめると、兄貴は言った。その言葉に、オレは俄かに混乱してしまった。だって、兄貴とあの越前が別れるだなんて。オレには信じられない。例えそれが、オレの代わりという行動だったとしても、それでも兄貴は満足そうに見えた。それなのに、なんで…。
「僕のしている行為は、越前を傷つけ、そして裕太を冒涜していたんだ」
 それに、僕も、救われないしね。
 呟くと、兄貴は立ち上がった。両手でオレの肩をしっかりと掴み、真っ直ぐに見つめてくる。まだ兄貴の言葉の全てを整理できていなかったオレは、兄貴の眼の色が変わったことに気づかなかった。
「だからここで、悔い改めるよ。僕が好きなのは裕太だけだ。これからは、その想いを貫き通す。逃道なんて作らない」
「あに、き…?」
 好きだよ、裕太。囁くその声が耳に届くのとほぼ同時に、オレの唇には温もりが届いた。そのまま体をベッドに押し付けられる。
「ねぇ。例え報われなくてもいいんだ。嫌われてもいい。これ以上僕は僕を裏切らない」
 だからこれからは、僕のリビドーに忠実に生きるよ。
 クスクスと微笑いながら囁く。背筋に何ともいえない寒気が走ったオレは、兄貴の顔を見て、更に恐怖を感じた。悔恨の気持ちでいっぱいだったはずの眼は、いつの間にか、狂気を含んだ妖しい輝きを見せていた。その眼が細まり、そしてゆっくりと近づく。
「時間はたっぷりあるんだ。今までの償いとして、母さんたちが帰ってくるまでの間、全身全霊で裕太を愛すよ」
「やっ、やめっ……!!」





ダークな感じといえば、周裕だよね。不二クンがまた狂ってますが。
懺悔は悔い改めることなので、不二クンは悔い改めて、余所見をしないことにしました。
その結果がこれって…。確信犯だよね。悪気は無いのよ、全然。
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