不二の行動は突拍子もないけど。変なところにこだわりがあるから。そこを押さえちゃえば、掴まえるのは簡単。
 ほら今日も、時間通り。
 目の前を歩いている不二に、俺は駆け足で近づくと、その背中に飛びついた。
「ふーじっ。おっはよん」
「わっ、と。おはよ、英二」
 首に回された俺の手を軽く叩きながら、少し苦しそうに、それでも楽しそうに言う。地に足を下ろして回り込むと、不二はもう一度、おはよう、と言って微笑ってくれるんだ。
 不二のこだわりのひとつがこれ。朝練開始15分前に着くように学校に来ること。朝練がないときは、SHRの15分前。兎に角、約束の時間の15分前に、不二は現れる。たまに遅刻しちゃったと俺に苦笑しながら話すけど、それは15分前じゃなかったっていうだけだから、それでも約束の時間よりは早い。
 まぁ、そんな感じで。不二と2人きりの時間を作る為に、俺も頑張って15分前に着くように家を出る。とはいっても、不二よりも先を歩いちゃいけない。それだと、不二は声をかけてくれないから。不二より少しだけ遅く着くように家を出て、そんで十数メートル先の不二を見つけて猛ダッシュ。これが、俺の日常。
「英二はいつも早いね」
「なーに言ってんだよ。不二のが早いくせに。俺、一度も不二の前歩いたことないぜ」
「ああ、そっか」
 不二の腕に自分の腕を絡めて、ぴったりと引っ付いて歩く。不二はそれを嫌がる様子もなく、普通に納得したように頷いた。
 何納得してんだよ。大変なんだぜ、不二が視界に入る程度に遅れて家を出るのは。ちょっとでもタイミングを外すと、俺が不二を見つける前に、不二は学校に入っちゃうんだから。
 ったく。普段は鋭いくせに、肝心なとこ、鈍いんだ。不二は。
 心の中で毒づいて、それを声に出さない変わりに、不二の腕をきつく締め上げる。
「ちょっと、英二。痛いよ」
「痛くしてんのっ」
 苦笑する不二に、俺は頬をぷくっと膨らませて言うと、腕を緩めた。今度は不二が強く腕を絡めてくる。
「いててっ」
「さっきのお返し」
 痛みに不二の腕を叩こうとしたけど。それを察知した不二は、俺の腕からするりと抜けて駆け出した。慌てて、その後を追いかける。
「不二っ、逃げるなんて卑怯だぞ!」
「英二、学校まで競争ね」
「えっ、ちょっとタンマ」
「だーめっ」
 だーめっ、じゃないっての!折角の不二との2人っきりを、こんな風に短くしたくないってのに。マジ、ムカつく。
「なめるなよっ」
 不二が向き直る前に、俺はバッグをしっかりと掴むと猛ダッシュした。不二の手を、掴まえる。
「掴まえたっ。これで競争は出来ないよん」
 不二の手をしっかりと握り締め、無理矢理にゆっくり歩く。不満げに俺を見つめる不二にニッと微笑うと、しょうがないなぁ、と呟きながら、不二も微笑ってくれた。繋いだ手を、握り返す。
 女子なんかには、羨ましいとよく言われる。部活でもクラスでも不二君と一緒なんだよね、って。確かに一緒だけど。周りには他に色々いるから。2人っきりってわけじゃない。
 それに。
「不二ぃ」
「ん?」
「好きだよ」
「うん。僕も。英二大好き」
 近すぎるから。幾ら好きだって言っても、本当の気持ちは伝わってくれない。手を繋いでても、抱き締めても、駄目。不二にとっては、ただじゃれ合ってるだけ。他の奴等もそう言う眼で見るから、余計だ。
 いっそのこと、キスでもしてみる?とか思うけど。
「英二?顔、赤いけど。どうかした?」
「い、いんや。なんでもないよん」
 そう思っただけで、顔が赤くなるこの始末。どうやら俺は、いざってときに頼りにならない性格らしい。
 なーんていろいろ考えてると、あっという間に校門が見えてきた。俺の今日の2人っきりはこれでお仕舞い、か。
 一体何回こんな毎日を繰り返せば、俺の本当の声は不二に届くのか。というか、どうすれば本当の気持ちが伝わるのか。ねぇ、誰か。知ってたら、俺に教えてくんない?





♪でも ジーザス ジーザス 彼は友達 恋の相談も受けちゃう♪
本当はもっと切なくなる予定だったんですけどね。菊丸のキャラの所為でしょうか。そんなに暗くない。
それともあれかなぁ。途中からJAMの『ジーザスジーザス』が頭ん中を流れたからいけなかったのかなぁ。
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