孤独を、感じることがある。別に対人関係に悩んでいるわけじゃないし、病んでるわけでもないんだけど。誰かといるのに、独りだ、と思うときがある。
 その誰かは、勿論。今、俺の上で汗を流している不二周助以外の何者でもないんだけど。
「不二っ」
 漏れてくる高い声を押し込め、名前を呼ぶ。不二は動きを緩めたものの、止めること無く、俺の顔を覗き込んできた。その頬を両手で挟み、無理矢理にキスをする。
「好き、だ」
「うん。知ってる」
 俺の言葉に、優しい笑みを浮かべながら、頷く。けど、決してその先は言わない。自分がどうだとか、そういったこと。不二は、決して言葉にしない。
 理解りきったことだ。不二にとってこれは、体だけの関係。そうではないと思っているのは、思いたいは、俺だけだ。
「っあ」
 不二の動きが、思いがけず激しくなり。俺はその背に爪を立ててしまった。不二の顔が、柄にもなく歪む。が、それは背中の痛みだけが原因ではないようだ。
「さ、えきっ…」
 行為の中、一度だけ、不二は俺の名を呼ぶ。それは限界が近いとき。そしてこのときが、俺が最も強く、孤独を感じる瞬間――。

 一人じゃないのに、孤独を感じるなんて変なの。
 そのことを不二にそれとなく話したとき、そう言われた。俺を強く抱き締めながら、本当に不思議そうに、呟いていた。
「佐伯の気持ち、分かった気がする」
 あの時と同じように、俺は今、少し湿った不二の胸に抱かれている。
「……何?」
「誰かといるのに、独りだって思う気持ち。いつだったか、言ってたよね。今なら、分かるよ。僕も、そう感じるときがあるから」
「……手塚くんといる時とか?」
「手塚の名前出すなって言ったくせに、自分では言うんだね」
 苦笑しながら言う不二に、俺は溜息を吐いた。
 確かに手塚くんの名前を出して欲しくないと言ったけど。それは名前を口にして欲しくないっていう意味じゃなく、彼の話題そのものを出さないで欲しいと言う意味なんだ。それなのに。不二はいつも彼の話ばかり。
「彼の話をしてるのがバレバレなのに、名前を出しても出さなくても一緒だと思うけど」
「そう…そっか。うん、そうだよ。手塚といる時」
 俺の言葉に頷くと、不二ははっきりと、手塚、と声にした。本当は、もうそこでこの話題を終わりにして欲しかったんだけど。
「なんか、全然伝わって無いんだよね、気持ち」
 不二は俺の気持ちなんて知らないから、そのまま話を続けた。勿論、手塚、とはっきり声にして。
「僕がなんで傍にいるのか、全然分かってないんだ。どれだけ好きだって言っても、そうか、の一言。周りから見れば、付き合ってるんじゃないの、って言うくらい一緒にいるのに、本人は全くその気ナシ。非道いよね」
 それは、不二も同じだろ。言いそうになって、飲み込んだ。酷いな、と頷くと、でしょう、と不二は溜息混じりに呟いた。
「あ、伝わってないんだな、僕の気持ち。そう思ったときにね、凄く孤独な感じがしちゃうんだ。どんなに傍にいても、どれだけ言葉を交わしていても、凄く、独りな気がする。佐伯もそうなの?」
「――え?」
「だから、佐伯も、僕と同じような感じで、その誰かと一緒にいるのに独りを感じるのかなって」
 その誰かは、不二、お前だよ。なんて、言えたらどれだけ楽だろうか。
「そうだな。俺がこれだけ好きなのに、本人は全然気づいてくれないんだ。それどころか、俺と一緒にいるのに、他の奴のことを想ってる。そのとき、やっぱり独りだなって感じるな」
「……辛いね」
「…………辛いけど。それでも離れられないからな」
「それだけ、好きなんだね」
 はは、と不二の言葉に乾いた笑いをあげると、俺は不二の腕の中に深く潜り込んだ。その体を強く抱き締め、伝わってくる鼓動に耳を澄ます。
 ねぇ、佐伯。僕とセックスしてみない?僕のこと好きじゃなくていいからさ。僕は佐伯を好きだけど、恋愛とかの好きじゃないし。ちょっとした好奇心。ね、どう?
 不二の軽い誘いに、俺も軽いフリをして乗った。好奇心がなかったわけじゃないけど、それよりも、不二と一緒にいるための口実が欲しかったと言うのが、理由。それでも不二は俺が不二をそう言う意味で好きではないと信じて疑わないから、俺は本当のことを言わずに誘いに乗った。もし俺の気持ちを知っていたら、不二は誘ってこなかっただろうし。
 下になることに不満がなかったわけじゃないけど、思い返して俺は了承した。下ならば、自分の想いをただぶつけているのではなく、不二の想いを受け入れているのだと、錯覚させてくれると思ったからだ。そしてそれは、そのその通りだった。
 ただ。まさか、そんな中で、こんな風に孤独に陥るとは思ってもいなかったんだけど。
「……こんなに、好きなのになぁ」
 ポツリと、不二が呟く。鼓動に耳を澄ましていた俺には、その呟きが嫌というほどはっきりと聴き取れてしまった。また、孤独に突き落とされる。不二の、手塚くんへの想いの分だけ深い孤独に。それでも。遥か上方だけど、必ず不二が一点の光のようにいるから、求めてしまう。
「俺も。こんなに好きなんだけどな」
 呟くと、俺は自ら孤独の闇に飛び込むように、不二にキスをした。





不二の鈍感っ!手塚のこと言えないよ、君。
♪君がいる淋しさと君がいない寂しさに♪
SURFACEっていい曲作るよね。『ボクハミタサレル』かなり好き。
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