ブラインドを開ける。差し込んでくる陽に僕は眼を細めた。けど。僕の後ろに座っている彼は、きっとそんなことはしない。目は開いているけれど、彼の目には今は、何も映っていない。
「観月…」
振り返り、呼びかける。けれど、それでも彼は相変わらず反応を示さない。
ここ数週間の屈辱的な生活のお蔭で、どうやら壊れてしまったらしい。本来、僕は壊れてしまったものは修理するのだけれど。人の心なんてどう修理していいのか分からないし、そもそも壊すことが目的なのだから、そのまま放ってある。
でも、完全に壊れているのかというと、そうでもない。だから、手元に置いている。
「観月」
もう一度、名前を呼ぶ。反応はない。
今度は近づいて、耳元で、息を吹きかけるようにして名前を呼んでみる。
「あっ…」
反応、有り。それも、ゾクゾクするような、色っぽい声。
ニィ、と口元を吊り上げて微笑うと、僕はその綺麗な髪に触れた。何もしなくなったとはいえ、事の後は必ず僕が入浴させているから、彼はいつまでも清潔だ。最も、清潔にするようになったのは、彼がこの様になってからだけれど。
僕が、触れる。その瞬間から。何も映していなかったはずの目には、しっかりと僕が映っていた。綺麗な、紫色の瞳。昔のような憎悪を含んだ眼差しではないけれど、潤んで何かを求めるようなそれは、僕の情を幾らでも煽る。
改良?それとも、改悪?
どちらでもいい。壊して捨てるつもりだったのが、まさかこんな結果になってくれるとは。
つくづく、自分は幸運だと思う。もしかしたら、山吹の千石くんよりもラッキーなんじゃないだろうか。
いい加減見つめるだけで何もしようとしない僕に焦れたのか、彼は自分から深く口付けてきた。時々、甘い声を漏らしながら、僕を誘うように舌を絡める。それに応えると、彼は全身で反応した。先を促すように、体をくねらせて。
「ふふ…。君は、最高の玩具だよ」
何も身につけていないその白い肌を、焦らすように指先でなぞる。彼がこうなるまでは、僕の言葉に、指先に、もの凄い拒絶を示し、睨みつけ、罵声を飛ばしていたものだ。
でも、今は違う。
「あっ、ぁ…」
過剰なくらいの艶かしい声をあげ、もっと刺激が欲しいと僕を見つめてくる。
「大丈夫。焦らなくても、好きなだけ、してあげるから」
大声を上げて笑い出しそうになるのを堪え、耳元で、出来る限りの低音で囁く。彼に、少しの恐怖と、気が狂いそうになるくらいの期待を与えるために。
そして。僕に、気が狂うほどの快楽を与えてもらうために…。