これは罰?
 それとも。
 ここから罪が始まる?

「んっ…」
 何が、起こったのか理解らなかった。
 ひとりソファに座っていた僕の前に立ったかと思うと、首に腕を絡め、その膝の上に乗ってきた。そして、わけが解からないままに、その顔が近づいて――。
「やめっ、裕太!」
 その胸を押し、唇を引き剥がす。冷静になるまでに時間がかかってしまったため、裕太の舌から僕の舌まで、白い糸が伸びていた。
「何だよ、兄貴。大丈夫だって。今日、誰も居ねぇんだろ?」
「誰かが居るとか居ないとか、そういう問題じゃないよ」
 何とかして、裕太を膝から降ろしたかった。けど、ずっとこうしたいと思っていたから。僕は完全に拒むことが出来なかった。せめてもの抵抗として、裕太の腕を、僕の首からはずす。
「何惚けたこと言ってんだよ。兄貴、本当はずっとオレを抱きたかったんだろ?」
「なっ……」
「オレも、兄貴にずっと抱かれたいって思ってた」
 裕太の発言に、僕の手が緩む。それをいいことに、裕太はまた僕の首に腕を絡ませてきた。
「でも、兄貴がいつまで経っても抱いてくれねぇから。だから、オレはルドルフに行ったんだ。そうしたら、強引にでも兄貴が連れ戻して犯してくれるかと思って」
 言って、もう一度キスをしてくる。誘うような舌の動きに、僕も思わずそれを絡めてしまった。それを合図にしたかのように、裕太の手が僕の首から離れ、シャツのボタンを外してくる。
「なぁ、兄貴。兄貴はオレが兄貴のことを嫌ってるだろうって思ったから、ずっとこういうことしなかったんだろ?オレは嫌ってなんかない。兄貴が好きなんだ。だから…」
 いいだろ?耳元で囁く。身体をビクつかせた僕に、裕太は微笑うと手を取ってきた。それを少し膨れ上がった自分のそこに押し付ける。布ごしなのに、そこに熱があることはすぐに理解った。
「ゆ、うた?」
「理解るだろ。オレが、どれだけ兄貴を待ち望んでたか。キスしただけでこれなんだ。もし、中で兄貴を感じることが出来たら…」
「じ、冗談は止めようよ。僕は確かに裕太のことが好きだけど。ヤりたいとかそう言う風には思ったことないよ」
 ぐいぐいと僕の手をそこに押し付けてくるから。そのままそこを揉み扱きそうになるのを堪えると、僕は裕太の手を振り解いた。再び捕まえようと追って来るのを、逆に僕がその手を捕まえることで阻止した。
「嘘吐くなよな。じゃあ何で、さっき舌絡めてきたんだよ。何で今、オレを突きとばさねぇんだよ」
「それにっ。……僕たちは男同士だし。何て言ったって、兄弟だ。駄目だよ、こんなこと」
 呟いて、裕太の腕を放り投げるようにして離した。その腕は勢いよく遠ざかり、その後で僕の肩を掴んだ。
「男同士なら、ガキできねぇから、やりたい放題だぜ?それに兄弟なら、少しくらいベタベタしてたって怪しまれねぇ。泊まるのだってな。いいこと尽くめじゃねぇか」
 何て、ことを言うのだろう。ずっと、無邪気だと思っていたのに。裕太はいつからこんな悪知恵が働くようになった?それとも、僕が見落としていたのか?余りにも、裕太を神聖化しすぎていて…。
「と、にかく。駄目だ。ヤりたいなら、他の人とでもやって――」
「オレは兄貴としたいんだ!」
 僕の言葉を遮るように言うと、肩に合った手を背に回し、抱き締めてきた。
「兄貴が好きなんだよ。兄貴じゃないと、駄目なんだ」
 今にも泣き出しそうな声で、言う。
「裕太…」
 心が、揺らぐ。僕だって、裕太が好きだし、だからそう言うこともしたいと思ってた。思ってる。でも、そこは越えちゃ行けないんだ。その為に、僕は裕太がルドルフに行くことに反対はしなかったんだ。そうすれば、僕という獣から裕太を守ることが出来るって。
 それなのに、裕太から求めてくるなんて…。
 僕は、どうしたら良い?
「………オレ、淫乱なんだって」
 暫くの沈黙のあと、裕太は身体を離すと言った。その眼は、少し赤かった。
「何、だって?」
「淫乱なんだってさ。観月さんが言ってる。自分でも、そう思う」
「観月が?」
 何故ここで、アイツの名前が出てくるんだろう?それに、インランって…。
「オレ、寮で毎日のように観月さんに犯されてるんだ」
「なっ…」
「キス、上手かっただろ?全部観月さんに教えてもらった。最初に犯されたのは、寮に来て一週間後だった。寮でひとり部屋だと思って油断してたんだ。抜いてる所を見られて、そのまま…」
 言葉を止めると、裕太は自分のシャツのボタンを外した。現れた肌には、無数の赤い痕。
「犯されながらも、オレ、気持ち良いとか思っちゃって。ホント、淫乱だよな。それからほぼ毎日…」
 手を伸ばし、裕太の痣に触れてみる。夢でも何でもなく、それは愛撫の痕だった。
「……断れないの?」
「オレだって、観月さんに抱かれるのは嫌だ。でも、どうしようもないんだ。身体が、誰かを求めてる。でも、信じてくれ。オレが欲しいのは兄貴だけなんだ。……多分、兄貴じゃないから、充たされてないだけなんだ」
 沈んだ声で言うと、裕太は俯いた。雫が僕の膝に落ちる。顔を覗き込むと、裕太は泣いていた。
「何処で、間違ったんだろ。オレ、穢れちゃったよ」
「……裕太」
「なぁ、兄貴。オレを清めてくれよ。兄貴なら、オレの穢れを取り除いてくれそうな気がするんだ。頼むよ…」
 顔を上げ僕を見つめると、裕太は哀願してきた。その顔に、心が揺らぐ。
 気がつくと、僕は裕太を抱き寄せ、その涙を舌で掬い取っていた。そのまま舌を滑らせ、観月がつけた痕の上を辿っていく。
「っは…」
 淫乱だからなのか、それとも相手が僕だからなのかは理解らないが、裕太はすぐに息を荒げて熱いと息を吐きだした。漏れてくる声に、手、が止まる。
「ぁにき…?」
「だ、めだ」
 せっかくここまで耐えてきたのに。ここで裕太を抱いてしまったら、それが無駄になる。だって、一度きりなんて絶対無理だ。
「何で?やっぱりオレが淫乱だから?穢れてるから?」
「ちが――」
「兄貴のせいなのに?」
「!?」
「兄貴がもっと素直にオレに気持ちをぶつけてくれたら。オレはルドルフに行くことは無かったし。そしたら、観月さんに抱かれることだって…」
「でももそれは、裕太にだって言えることでしょ?」
 そんなの、勝手だ。ルドルフ行きを選んだのも、観月の誘いを断れないのも、全部裕太が選択したことだ。僕が裕太に何もしないことを選択したように。
「だから、今言ってんだよ。好きなんだ。兄貴が、凄く好きなんだ。もし、兄貴もオレのことを好きなら……」
「裕太。僕は――」
 答えられなかった。それよりも先に、震える裕太の身体を抱き締めていた。感情のまま口づけをし、その身体をソファに押し付ける。好きだよ、とやっとの思いで呟くと、僕はその身体を抱いた。

 これは、互いの感情を抑えつけてきたことに対する、僕たちへの罰なのだろうか?
 それとも、互いの感情を解き放つことで、ここから僕たちの罪は始まるのだろうか?





365題の罪を書いていたら、浮かんだのよ。
勢いに任せて書いたら、エロが無くなってしまいました。しかもちょっと長めだし。
本当は色々やって誘わせようと思ったのに(笑)。
そんなわけで、表です。
珍しいよね。いつもとは逆。不二クンのココロの葛藤がウザイです(笑)
もう、どうせ拒みきれないんだから、最初っからヤっちゃえよ!みたいな。
これ、罪と罰じゃなくて、罰と罪ですよね(笑)
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