目隠しをした、彼を攫う。
 もう一時間も走らせている車。隣を見ると、彼は安らかな寝息を立てていた。その姿に、彼の子供らしさを見たような気がして、私は微笑った。
 普段、私を見つめている彼からは想像もつかない。今の彼は、これから私が行こうとしている場所には似合わない。似合うのは、私の上で不敵に微笑う彼。
 目的地に着くと、私は車を止めた。起きなさい、と彼に呼びかける。しかし、彼は目覚めの気配を見せなかった。仕方が無いな、と呟いて、シートベルトを外す。
 体を捻り、彼の上に覆い被さると、私はその唇に自分のそれを重ねようとした。その瞬間、彼の手が動いて私の頬を挟んだ。深く、唇を重ねられる。
 思ってもいなかった彼の行動にバランスを崩した私は、クラクションを鳴らしてしまった。だが、それに驚いたのは、クラクションを鳴らしている私だけであり、彼は相変わらず舌を絡めたまま動じた様子は無かった。
 そのまま暫く五月蝿いキスが続いたが、彼の気が済んだのか、ようやく私を解放した。荒い息のまま体勢を立て直すと、途端に辺りは静まり返った。
「もう、着いたんですか?」
 アイマスクを外し、それを私に返すと、彼は少々寝惚けた声で言った。それを受け取り、ドアのロックを解除する。
「着いていなければ、今頃私たちは病院行きだ」
「それもそうですね」
 いつものように不敵に微笑って言う彼に、同じように微笑い返すと、私たちは車を降りた。

「どうやってこんな所を見つけたんですか?」
 そこに入るなり、彼は駆け出した。まるで子供のように無邪気に辺りを見回し、時々恐ろしくなるような眼で一点を見つめる。それを何度か繰り返して満足したのか、最上階に着くと、彼は割れた窓を開け、そこに座った。片足を、外に出して。
「気に入ったか?」
「勿論ですよ。僕の望んだ通りだ」
 ポケットからカメラを取り出すと、彼はそのままの状態でシャッターを切った。
「それに、僕に良く似合ってる。貴方には、似合いませんけど」
 外に向けていたレンズを室内に向けると、彼は私目掛けて、再びシャッターを切った。カメラをポケットにしまい、似合いませんね、と呟いて愉しそうに微笑う。
「そんなに、似合わないか?」
「貴方はこんな廃墟よりも、新しいだとか、ハイテクだとか。そう言ったものの方が似合いますよ。もっと、清潔で綺麗なものの方が」
「そうか。私はそんなイメージか」
「イメージというか、まぁ、貴方を見れば誰だってそう思いますよ」
「自分の学校の生徒ではないにしろ、中学生である君とこんな事をしていても、か?」
 彼に近づきその頬に触れると、私は彼に口づけた。先程、車の中でしたものよりも深く、長く、唇を重ねる。
「そうですね。忘れてました。淫らな榊さんの姿を」
 銀色に輝く糸を断ち切るようにして彼は言葉を放つと、立ち上がり、部屋の真ん中に立った。
「本当にいいですね、ここは。周りを気にせずに色んな事が出来そうですし。それに、声だって良く響く」
 ただひとつ、不満があるとすれば。呟いて私を振り返ると、彼は微笑った。
「僕ひとりじゃ、ここには来られないという事ですね。貴方は僕に道を教えてはくれなかったし、それに、教えてくれたとしても車でこれだけ時間がかかるんじゃ、ちょっと無理ですよね」
 まぁ、僕が撮影をする度に、貴方が連れてきてくれるというのなら、その不満は消えますけど。誰かが運び入れたのか、それとも元から存在していたものなのか。壁の隅に置かれている黒いソファに座ると、彼は私を手招いて言った。じっと見つめるその眼の意味に気づき、私は上着を脱ぎながら彼の隣に座った。もう一度、口づけを交わす。
「でも、いつもこうだと、撮影はちょっと無理ですね。また、いい場所を探さないと。今度は、自分で」
 ゆっくりと私の体を押し倒して言うと、彼はこの廃れた景色に似合う眼で不敵に微笑った。そして私は、彼の生み出す快楽の中へと攫われて行った。





ラブラブ(!?)、不二榊。
でも、こんな埃っぽい所よりも、榊の家の方がきっと防音。
あ、でもそれじゃ、声が響かないか。(←どうしても榊の喘ぎが聴きたいらしい)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送