眼を開け、俺の髪に触れながら本を読み耽る男の、その細く長い指をじっと見つめる。
「何。本のタイトル、気になるの」
 本が邪魔して見えてねぇ筈なのに、不二は髪を梳く手を止めると、訊いてきた。だが、相変わらず本はそこにあるから、その顔は見えない。
「は。誰がてめぇの読んでる本なんて気にするかよ。ちょっと時間が気になっただけだ」
 言って、本を持つその手を掴むと、少し捻った。飾り気のねぇ文字盤を、顔に近づける。
「それじゃ暗くてよく見えないでしょう」
 やっとの事で本を脇に退かして言うと、不二は俺の頭の乗っている足を折り曲げた。そのことで寝心地が悪くなって体を起こそうとしたら、そのまま俺の顔を覗き込むような形でキスをされた。
「そろそろ、膝で寝てるのが飽きてくる頃だと思ったよ。ほら」
 唇を離し俺の体を起こすと、不二は両手を広げて微笑った。行動を先回りさてるみてぇで気に食わなかったが、結局他にすることも見つからねぇから。俺は、ソファから一度降りると、大人しく不二の膝に座った。勿論、向かい合う形で。
「可愛いな、跡部は」
 少しだけ膨れた俺の頬に優しく触れ微笑うと、不二はもう一度キスをしてきた。頬にあった手を後頭部へと回し、深く貪ってくる。
「頭、可笑しいんじゃねぇのか」
 充分すぎるほどのキスに、深い呼吸を繰り返しながら、俺は呟いた。何、と眼で訊いて来る不二の額に、自分のそれを重ねる。
「何でてめぇは、いちいち俺様のして欲しいことが分かんだよ」
 俺の言葉が言い終わらないうちに、不二はクスクスと微笑いながらシャツのボタンに手をかけていた。身長の割に大きい手が、俺の肌に直に触れる。
「何でだろうね。でも多分、僕は、跡部のしたいことが分かってるわけじゃないよ」
「あーん」
「僕は、僕がしたいことをしてるだけ」
 もしかして、誘導されてるんじゃないの。言いながらクスリと微笑って唇を重ねると、不二はそのまま首筋から胸へと舌を這わせた。生温かい感触に、体の奥が熱くなる。
 もしかしたら。本当に不二の言う通り、俺は不二に誘導されているのかもしれねぇ。触れて欲しいと思うのは、不二がそうさせているからなのかも。
「っ」
 いいや。それは、違う。
 漏れそうになる声を、下唇を噛んで堪えると、俺は不二の顔を自分の胸に押し付けるようにして強く抱きしめた。不二の唇が触れたところを、強く吸われる。それも、声を出さずに深い息だけを吐き出すと、俺は、違ぇな、と唇だけで呟いた。
 俺が誘導されてるわけじゃねぇ。俺様がそんなこと、されるわけがねぇ。誘導されてるのは、不二の方だ。
「ああ。でも、こういう可能性もあるよね」
 声を出さないようにすることに気をとられて腕が緩んだのをいいことに、不二は体を離すと、俺を見上げて微笑った。
「僕が、跡部に感化、いや、伝染と言った方がいいかな。君の思考回路が僕に伝染してるって言う可能性」
「それじゃまるで、俺様が病原菌みたいじゃねぇか」
「うん。きっと、僕は病気なんだよ。一日中、跡部のこと考えてたから。きっと病気になっちゃったんだよ」
「さっきまで本に夢中になってた奴が言う台詞じゃねぇな」
「駄目だな、跡部は」
 悪態を吐いた俺に、不二は相変わらず優しく微笑うと、その笑顔からは想像もつかない強引さで俺をソファに押し倒した。見上げる俺の視界を塞ぐように顔が近づき、熱いキスをされる。
「この二時間、一度もページを捲ってないんだ。だってそうでしょう。僕の右手はずっと跡部の髪を撫でてたんだから。それに、片手で本を持ちつつページを捲れるほど、僕は器用じゃないしね」
「嘘吐いてんじゃねぇよ」
 微笑う不二にまた悪態を吐くと、今度は俺からキスをした。俺の言動に少々驚いたような表情をしている不二に、微笑う。
「片手で容易く人の服を脱がせられる奴が、器用じゃねぇわけねぇだろ」
「成る程。それも、そうかもね」
 でも、ずっと跡部のこと考えてたのは本当だからね。俺を真っ直ぐに見下ろして妙に真面目くさった口調で言うと、不二は俺がして欲しいと思った通りに指を動かして行った。





なりきり50質で跡部のことだけを考えるように言われたので。頑張ってます、不二クン(笑)
病的というよりは、病気になってしまいましたね。ありゃりゃ。
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