雪が見たい、と思った。普通に呼吸する息すら白いこんな日こそ、雪が見たい、と。
 ただ寒いのと雪が降って寒いのだと、やっぱり感じ方が違うし。
 なんて言ったら、手塚に変な奴だと笑われた。笑われたけど、そんな風に笑ってくれたことが、凄く嬉しかった。だってそれは僕だけに見せる、顔。
 でも、今日は生憎の晴天。ブラインドの隙間から見える月は、青白い光を放つ、綺麗な満月。
「手塚、もう寝ちゃってるかな」
 わけもなく、彼のことを想う。こんな時、自分は何て幸せなんだろう、と思う。でもやっぱり、隣に彼の居ない淋しさは誤魔化せない。
 何か口実は無いものか、と考える。理由もなく会えるのは、彼曰く、僕の特権らしいけど。まさか真夜中に、理由もなく会いに行くなんてこと。流石の僕でも、出来ない。彼が起きているのならまだしも。きっと、寝てるだろうし。
「雪、降らないかな」
 呟いてみる。暖房器具をつけているのにも関わらず、吐く息が白い。それならば、いっそのこと窓を開け放ってしまおう、と思った。
 上着を羽織り、ブラインドを開ける。
「………あ」
 目の前に現れた世界に、一瞬、雪が降り積もっているのかと思った。窓を開け、身を乗り出す。けれど、やはりそれは僕の見間違いで。雪なんて、どこにもなかった。
「そうか。これか」
 宙を見上げて、納得する。この満月からの青白い光で、屋根やアスファルトが白く、雪が積もっているかのように輝いていたのだ。
 月の光って、こんなに明るかったんだ。今更ながら、思う。勿体無いこと、したな。
「こんなことなら、夜間にもカメラを持って出歩くべきだった」
 なんて。今からでも遅くはないのだけれど。それまで眠っていた夜に、なんだか無駄なことをしていたような気持ちになった。
 これを、口実にしたら。
「手塚、怒るかな?」
 それともまた、変な奴だと笑ってくれる?
 出来れば後者がいいけれど。彼が僕の為に、僕だけに感情を見せてくれるのならば、どちらでもいいと思った。そう思っていたら、いつの間にか僕は携帯電話を耳に当てていた。
 聞こえる電子音。1回も鳴らないうちに、彼が出た。
「不二か」
「……起き、てたの?」
「悪いか?」
「ううん。良かったなって思って」
 欠伸を噛み殺したような声に、思わず微笑った。それは彼にも伝わったようで、受話器の向こうからわざとらしい溜息が聞こえてきた。
「で。何か用か?」
「……今から、行っても構わない?」
「何か、遭ったのか?」
「ううん。そうじゃないけど。月も綺麗だし。雪のない雪景色を、一緒に見るのも良いかと思って」
「………は?」
「窓の外、見てみてよ」
 まるで寝惚けているかのような声に微笑いながら、僕は言った。ちょっと待ってろ。そんな声と共に、窓の開く音が聞こえる。
「ね。月の光で、雪景色みたいでしょ?」
「……それで、オレの所に来るのか?」
「うん。行きたい」
「今からか?」
「今すぐ。駄目?」
「……全く、相変わらず変な奴だな」
 息を吐き出して笑う、優しい声が聞こえてきて。僕は微笑った。拒否はされていないから、窓とブラインドを閉め、部屋を出る。
 階段を降りている途中、思い出して、僕は訊いた。
「そういえば。こんな時間なのに、なんで起きてるの?」
「…………」
「手塚?」
「……何となく、そんな気がしたんだ」
「そんな気?」
「どうやら、変な奴の傍にいすぎて、オレも変な奴の仲間入りをしてしまったようだ」
 溜息混じりに、でもどこか嬉しそうに言うと、彼はまだその言葉を理解していない僕に、長い時間は待たないぞ、と言ってさっさと切ってしまった。
 流れてくる電子音を聴きながら、でも、考える時間はそんなに必要なかった。思わず、顔がニヤける。
「よしっ、と」
 携帯電話をポケットにしまい、吐く息の白さを確かめて顔を元に戻すと、僕は彼の家を目指した。





……別にオリジナルでも良かったな、と今更。
綺麗で静かな文章が書きたいと思ったのですが。上手く雰囲気出てたら良いな。
満月よりは、半月くらいの方が光は青白いかもね。本当に、見間違えますよ。
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