1.いつまで?
「跡部」
「あんだよ」
「……まぁ、いいか」
 僕の膝に頭を乗せ読書に耽っている彼に、僕は何度目かの溜息を吐いた。
 そんな暗い所で本なんか読んでると自慢のその目が悪くなるよ、なんて。母親じみた科白でどうにか僕の視線を遮っている文庫本をどかしてやろうかとも思ったけど、そんな言葉聞くような人じゃないし。
「足でも痺れたのか?」
「いや、別に。そういうんじゃないんだけど、ね」
 大丈夫だよ、なんて。文庫を少しずらして見上げた彼につい微笑ってしまう自分が嫌だ。
 ここで足が痺れたなんて嘘を吐けば、彼は僕の隣に並んでくれたかもしれないのに。
 駄目だな、僕は。
 苦笑して背もたれに寄りかかる。だらりと提げた手に触れたものに目をやると、一冊の文庫が転がっていた。仕方なく、彼のお下がりに与ることにする。
 静かな時間だ。時折ページのめくる音しか聞こえない。僕は元々騒がしいのが好きではないし、彼だって観客がいなければ本来は大人しい性格だ。だから、こういう時間が成り立つのは当然のことだ。居心地も悪くない。だけど。
「……いつまでそうしてるつもりなんだよ」
 僕の持っている文庫から、彼の持っている文庫へと視線を移した時。不意にその先から拗ねたような声が聞こえた。え、と声を漏らした僕に、文庫の隙間から彼の目が覗く。
「だから。いつまでそうしてるつもりなんだって言ってんだよ」
「いつまでって」
「俺様が読み終わるまでか?それとも、てめぇが読み終わるまでか?」
「跡部、それは……」
 幾らなんでも、我侭すぎるんじゃない?
 睨みつけたままの彼に内心で苦笑して、文庫を置く。勿論、彼のそれも一緒に取り上げてしまう。
「待たせてゴメン」
「遅ぇよ、バーカ」
 頬に触れ額に唇を落とすと、彼は悪態を吐きながらも口元を緩めた。伸びてきた手が、僕の首を掴む。
「……跡部、この体勢で居続けるのはちょっと、苦しいんだけど」
「俺様のほうが苦しかったんだ。少しは我慢しろ」
「我慢って」
 僕だって、それなりに我慢してたんだけど?なんて。思っても声にはしない。
 仕方がないから膝を折り曲げて彼の顔を僕へと近づけた。それでも少しキツイ体勢だったけど、何とかその唇に触れることには成功した。
「跡部」
「あんだよ」
「好きだよ」
「……そうかよ」
 つれないな。まぁ、言葉だけだけど。
 顔を赤くして目をそらせた彼に僕は微笑うと、頬に置いたままの手を滑らせては素直じゃなさ過ぎて逆に素直なその体を強く抱きしめた。




一応、跡部の中では誘っていたらしい(笑)
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