2.Replay
「ったく。いつまで観てやがるんだよ」
「だって恰好いいからさ、この跡部」
 俺を振り返ることなく、テレビ画面を見たままで不二は言った。その声は嬉しそうだが、俺はちっとも嬉しくなんてない。
 不二が観ているのは俺の試合が収録されているDVDだ。といっても誰かに見せるためのものじゃなく、俺自身が自分のプレイを確認するために録画させたもの。だから編集もしていないしろくでもねぇシーンもある。だがそれを、不二はもう1週間も連続で観ている。毎日俺ん家に来てくれるのは嬉しいが、どうも納得がいかない。
 幾ら俺様がナルシストだからって、一週間も同じ映像を観ていることはない。それなのにコイツは。
「お前、生身の俺様より、画面越しの俺様の方がいいってのかよ。あーん?」
 いい加減頭に来たから、テーブルの隅に置いてあったリモコンを取ると俺は強制的に電源を切った。そうすることで不二はやっと俺を見たが、その目には明らかな不満の色が見えた。
「妬いたんだ?自分に」
「飽きただけだ」
「僕は飽きてないから。飽きたのならいい加減にこのDVD、僕に貸してくれないかな?」
「駄目だ」
 そんなことしたらお前は自分の部屋に引き篭もるんだろ?
「ケチ」
「だから観せてやってんだろうが」
「でも消した」
「うるせぇよ」
 リモコンに手を伸ばそうとしやがるから、俺はソファの隅へとそれを放ると不二の手を掴んだ。だが、捻りあげるつもりが、何故か引き寄せられてしまう。
「離せっ」
「掴んでるのは跡部だろ?」
 そういって持ち上げた腕に視線をやると、確かにそこには俺の手がしっかりと不二の手首を掴んでいた。
「ちっ」
 恥ずかしさを散らすために舌打ちをし、手を離す。が、追いかけてきた不二の手にすぐに捉えられてしまった。
「どういうつもりだ?」
「別に。画面の中の跡部を観れなくなったから」
「生身の俺は代わりってわけか」
「そ」
 悪びれる素振りもなく不二は頷くと、俺に笑顔を見せた。
 当然不二の返答は頭に来たが、その笑顔に毒気を抜かれちまう。一瞬だけ、代わりでもいい等と思っちまう自分が悔しい。
「ふざけっ」
「でもさ」
 俺の言葉を遮る、さっきまでとは打って変わった真剣な声。間抜けにも口を半開きにしたままだった俺は、容易く不二に侵入を許しちまった。
 腹立たしくも待ち焦がれていた感触。不二の手を振り払おうとしていた俺の腕からは力が抜け、後ろに倒れる不二に吸い寄せられるように、俺も体を倒した。
「やっぱり生身の跡部を見てると、どうしても見るだけじゃ抑えられなくなっちゃうんだよね。そうなるともう、見るどころじゃなくなっちゃうから。……結構困るんだよね」
 困っているというよりは愉しんでいるかのように言いやがるから、俺は今度は自分から、噛み付くようなキスをしてやった。
「だったら、見る余裕をもてるくらいに慣れればいいだろ」
 我ながら、恥ずかしい科白だと思う。だが、俺の言葉を聞いた不二は、少し目を丸くした後で青い眼をゆっくりと細めて頷いた。
「分かったよ。じゃあ、早速慣れるための訓練をしなきゃね」




自分にヤキモチをやくベ様。
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