4.目もりキッチリ(不二跡)
「いつも、あんな感じなんですか?」
「ええ。景吾坊ちゃまはそれはそれは几帳面な性格でございますから」
「そう、ですか」
 少し胸を張って言う執事の言葉に、僕は呆れ口調で頷いた。それでは私は、と言って部屋を後にする執事に礼をいい、入れてもらった紅茶を啜る。
「危なっかしいな、なんか」
 モニターに移っているのは、バカみたいに広い跡部家のキッチンの映像。最早それは厨房と言ってもいいのかもしれない。広さは勿論だが、その内装もレストランで見かけるようなスチール製のテーブルやラックが並んでいる。
 そんなキッチンに、跡部が一人。メモ書きを片手にケーキ作りに奮闘している。どうやら、僕に渡すチョコレートケーキを作ろうとしているらしいのだけれど。
「もう、30分か」
 どうやら彼は材料を総て用意してから、手順通りにケーキを作り始めるつもりらしい。そして、計器と格闘すること30分。未だ、材料は総て揃わない。
 そう、だから、危なっかしいということなんて無いのだけれど。でも。
「危なっかしい……」
 思わずそんな言葉を呟いてしまうのは、きっと彼が重量を測るのに慎重になりすぎている性だろう。
 今まで何度か僕に料理を作ってくれたことがあったけれど、切り分けられたそれらはどれも定規で測ったかのように大きさが揃っていた。きっと、僕に出す前にこうして慎重に包丁を握っていたのだろう。
 千切りなんてさせたら、一体どれくらいの時間がかかるんだろう。
「まったく」
 いい加減にして欲しいな。これじゃあ見てるこっちが疲れるよ。
 なんて。だったら見なければいいだけの話なんだろうけど。
 可愛らしいエプロンを着て、真剣にメモリと格闘している彼がどうしても可愛くて。
「いい加減にするのは、僕の方なのかな」
 大して変わり映えのしない映像なのに、飽きることなく観ている自分に苦笑しては、紅茶をまた啜った。




365題で何度か跡部には料理に挑戦してもらってます。
ひらひらエプロン希望。
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