6.おそろい
「いや、だから。こういうもの、困るから」
 シャワーを借りるといった僕に、彼が差し出したのは、おそろいのパジャマ。
 もう何度も断っているはずなのに、懲りない彼は僕が泊まるというたびに、おそろいのルームウェアとパジャマを用意してくる。それも、何処で売っているのか疑問になるようなデザインのものを。
「困る必要はないぜ。これくらいの出費、俺様には痛くも痒くもねぇ」
「……いや、そういう問題じゃなくてさ」
 一応、パジャマを手にとって、広げてみる。シルクの手触りは気持ちがいいけれど、庶民派の僕にはやっぱりこれは落ち着かない。
 大体……。
「ベッドに行ったら五秒とせずに裸になるのに」
「……それまでの間、着てりゃあいいだろ」
 僕の言葉に何を想像したのか。彼は少し頬を赤くすると、目をそらしながら言った。ぶっきらぼうな口調。でもこれは、照れを隠すためのものだということを、僕はちゃんと分かってる。だから。
「そうだね」
 今日くらい、ほんの少しならいいかもしれない。こんな可愛い彼を見ることもできたのだし、そのお返しとして。
 広げたパジャマを体にあてがい、彼の目を覗き込む。
「似合う?」
「……俺様には負けるがな」
 僕の手からパジャマを奪い、自分の体にあてる。何故か自慢げに見せてくるから。
「そうだね」
 と頷くと、僕は彼の手からパジャマを再び受け取った。ソファに置かれた彼の分のそれも、手に取る。
「じゃあ、おそろいのパジャマ持って、一緒にお風呂入ろうか?」
 当然の流れだと思って、彼を誘う。だけど、彼はそこから動こうとはしなかった。
「……俺は後でいい」
 再び顔を赤くして呟く。
「考えてみろ。一緒に風呂なんか入ったら。……着る機会無くすだろうが」
 機会を無くすって。何を考えてるんだか。いやらしいなぁ、ほんと。
「分かったよ。じゃあ、先入ってくるから」
 笑いそうになるのをどうにか堪え、彼の分のパジャマをソファに戻す。ドアノブに手を掛けたところで振り返ると、黙って僕を見つめていた彼に微笑った。
「それまで、泣かずに待ってるんだよ?」
「誰が泣くかよ!」
 更に顔を赤くして怒鳴りつける彼に、僕は今度こそ声を出して笑うと、出来るだけ早く戻ってこようと思いながら、部屋をあとにした。




ベ様のセンスはハイレベル過ぎて、庶民はついていけません。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送