「絶対に、勝てないものって判る?」
 オレの膝に頭を乗せるようにして寝転ぶと、不二は呟いた。オレの手をとり、指を絡めてくる。
「……絶対に勝てないもの?オレがか?それとも、お前が?」
「両方…いや、この世のモノ総てかな。人も、動物も。ううん、それだけじゃない。僕たちがこうして寝転んでる屋上だって、勝てないよ」
「寝転がっているのはお前だけだろう」
「今はそういうことを言ってるんじゃないの。いいから、ほら。当ててみてよ」
 早くしないと、キスしちゃうよ?
 体を起こして、鼻先が触れるくらいまで近づくと、不二は微笑った。そのことに、頬が紅くなる。オレは少し体を反らせると、鼓動を鎮めるように深い溜息を吐いた。
「……理解らないな」
 オレの答えに、今度は不二が、仕方ないっか、と溜息を吐く。
「時間、だよ。時の流れには誰も逆らうことは出来ない」
 そこまでで言葉を止めると、不二は繋いでいた手を高く持ち上げ、そして離した。支えを失ったオレの手が、不二の手から滑り落ちる。暫くそのオレの手を不二は見つめていたが、息を吸い込むと、いつもより少し明るいトーンで話を続けた。
「どんなにずっと一緒に居たいって思っていても、それは不可能なんだ。永遠なんてモノは存在しないからね。だから、正解は、時間」
 理解った?言いながら顔を覗き込んでくる不二に、オレは首を横に振った。不二の顔が、不思議そうなそれに変わる。オレは溜息を吐くと、離れてしまった不二の手を再び繋いだ。指を絡め、二度と離れないよう、しっかりと握り締める。
「手塚?」
「オレには理解らない。時間の流れには勝てないことも、永遠なんて存在しないことも理解るが…」
「じゃあ何が理解らないの?」
「お前が言わんとしていることの意味だ」
「………。」
 オレの言葉に、不二は眼をそらすようにして体を起こすと、そのまま黙り込んだ。
 どうして、不二はいつもこういった方向に思考を持っていくのだろう。確かに、いつかは別れるときが来るだろうが、それは今ではない。更に言うなら、今のオレには別れる気など全く無い。それなのに。
 溜息を吐くオレに、ごめん、と呟く。オレが首を横に振ると、不二はオレの肩に頬を寄せてきた。もう一度だけ溜息を吐き、繋いだ手をしっかりと握り直す。
「確かに、永遠などというものは存在しない。人はいずれは死ぬのだからな。だが、それまでの、死ぬまでの時間を共にするということは、ある意味、永遠と同じではないのか?」
「でも、例えそうだとしても。取り残された方は、永遠とは言えないよ」
 不二の言う通りだ。死ぬ方は、その直前まで愛する者と一緒に居ることが出来るのだから、永遠と言えるかもしれないが。残された方は、自分が死ぬまでの時間を独りで過ごさなければならない。例え、直ぐ後を追ったとしても、多少のズレはある。眼を閉じる瞬間は、明らかに孤独だ。だが…。
「だが、その時はその時でどうするか考えればいいだけのことだ。心配するな」
「手塚、それって――?」
 オレの言葉の意味に気づいたのか、不二はオレの肩に寄りかかったままでオレを見つめてきた。少し頬が紅くなるから。オレは不二の顔が視界に入らないように目線を動かした。
「永遠などないと言うのなら、オレが見せてやる。オレが、不二よりも少しでも長く生きて。そして、永遠とやらを見せてやる。生涯をかけて、な」
「……手塚っ」
 その声と共に、自由だった不二の左手がオレ目掛けて飛んできた。抵抗する暇も無いくらいの速さで、強く抱き締められる。気がつくと、不二の顔は直ぐそこにあった。
「っ。おい、くっつくな」
「だって、嬉しくて。なんだか、プロポーズみたいでさ」
 額を合わせ、満面の笑みを作る。そんな不二に、オレは深い溜息を吐いた。
「手塚?」
「相変わらず、自分のこととなると鈍いのだな」
「え?」
 繋いだままだった手を解き、その手で不二の額を押しやる。焦点を合わせて不二を真っ直ぐ見つめると、オレは照れを打ち消す為に咳払いをひとつした。再び、不二の手を握り直す。
「みたいではなく、そのものだ」
「……手塚ぁ」
 目の前にあった不二の顔が、驚くほどに緩む。かと思うと、それが近づき、唇を重ねられた。そのまま勢いに乗った不二は、オレを押し倒して…。
「っ馬鹿、こんなところでやめろっ。……ぁ」





シリアスのようで結局はバカップルってね。
いつも不二は手塚よりも長く生きるみたいな感じになってると思うので、
たまには手塚のほうにも取り残された孤独を背負わせてみたいな、と。
時間の流れは誰にでも与えられるけど、もの凄く不公平だよね。
BGMは相川七瀬『NO FUTURE』(スペルが…)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送