「飛行機雲だ」
 空を指差し言うと、不二はオレから手を離し、カメラを向けた。飛行機が行ってしまってもまだ、カメラを向けている。
 どうやら、時間がかかりそうだ。
 溜息を吐くかわりに伸びをする。不二と同じように空を眺めていると、不意に風が吹いた。その涼しさに、もう秋なんだなと実感する。
「ねぇ、楽しい?」
 いつの間にか、オレにカメラを向けていた不二が、レンズから顔を離して訊いた。思わず手を顔の前に持ってくるオレに、撮ってないよ、と微笑う。
「楽しくなかったら、ここにはいない」
 少しからかわれたような気がしたので、口調がきつくなってしまう。にも関わらず、不二は、良かった、と言って微笑った。
 また、風が吹く。
 巻き上げられた土埃に目を細める。けれど、風上に立つ不二はそれをせず、ただ不思議そうな顔でオレを見ていた。
「何だ?」
「手塚の髪って、不思議だよね」
 オレの前に立ち、手を伸ばして前髪に触れる。逆方向に撫でつけるようにするが、手を離すとすぐにもとの位置に戻ってしまう。諦めたのか、不二はオレから手を離すと、隣に並んだ。さっきまでカメラを持っていた手が、オレの手に触れる。
「どんな風が吹いても、髪、乱れないんだもん。特別何かしてるわけじゃないんでしょ?」
 指を絡めながら、訊いてくる。その言葉に少しムッとしたから、オレはそれを無視した。
「……髪、ボサボサだぞ」
「そう?」
 頷くオレに、不二は空いている手で自分の髪を軽く梳いた。
「これで大丈夫?」
 オレの顔を覗き込むようにして訊いてくる不二に、ああ、と頷こうとした瞬間。また、突風が拭いた。今度は二人して目を細める。
「……もしかして、また僕、髪ボサボサ?」
「そうだな」
 オレの言葉に、不二は、あーあ、と溜息混じりに呟くと、再び手櫛で髪を梳かした。
「手塚の髪って、羨ましいかも」
 オレの前に回ると、自分の髪を梳いていた手で、またオレの前髪を逆方向に撫でつけた。手を離した瞬間、案の定、俺の髪は元の位置へと戻って行く。
「そうだな」
 元の位置にに戻った髪から不二へと視線を移し、頷く。と、それが可笑しかったらしく、不二はオレの肩に寄りかかるようにして微笑った。その所為で、不二の髪が少しだけ乱れてしまったことは、言わないでおこう。





短いですか?
唐突に、風景を書きたくなったので。
詳しく何処か理解るような描写はしてないけど。
同じ場所を想い描いてくれていたら嬉しいな、と。
こう言った静かで穏やかな話が多分一番得意です。
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