「もっともっとあなたを愛せるなら、ずっとずっとあなたを愛せるのに……か。何だかな」
 呟いて、溜息を吐く。その呼吸(いき)が届くように、彼の背を強く抱いて。
 もう熱も汗も何も無くなってしまった背中。抱き締めれば抱き締めるほど、現実に似た冷たさが伝わってくる。
「ねぇ、君は今、どんな夢を見てるの?」
 首元に顔を埋め、呟く。けれど、僕の声は届かないから。吐き出した音は彼の背中にぶつかると広がり、やがて僕の中に戻って来た。途中消えてしまった音のかわりに、微かな切なさを加えて。
 夢は寝て見るものではなく起きて叶えるもの、なんて。酷いことを言う奴もいるものだ。もう少し、眠りの中で見る夢を肯定してくれてもいいのに。僕が思い描いている夢と、彼が思い描いている夢は違うのだから。せめて、寝て見る夢くらい同じものを見させて欲しい。
 でも。僕は知ってる。違う人間である限り、同じ夢を見ることは出来ないということを。  彼を愛すれば愛するほど、それを、違う人間だということを実感する。肌を合わせれば合わせるほど、二人の境界を強く感じる。冷めていく、自分を感じる…。
「もう、駄目なのかなぁ」
 彼から手を離し、天井に向かって呟く。その音は、今度は真っ直ぐ僕に戻ってきた。自分で吐き出した言葉なのに、妙な現実を含んでいるから、泣きそうになる。
「手塚。好きだよ。……スキダヨ」
 何度か、感情の無い言葉を繰り返す。彼を見つめていたかったけれど、僕は天井しか見ることが出来なかった。目の上で手を交叉させ、深く、溜息を吐く。
「……オレも、不二が好きだ」
 突然、声が降って来た。驚いて腕を少しずらすと、彼の顔が眼に入った。慌てて再び眼を覆おうとする手を、彼に掴まれる。
「何故、泣いている?」
 普段からすると在り得ないくらいの力で、彼は僕の手をベッドに押し付けてきた。僕の顔を覗き込み、不思議そうに訊く。
「……別に。泣いてないよ」
「嘘を吐くな」
 呟いて顔を背けようとする僕に、彼は強く言った。その語気に圧され、視線が彼に戻る。
「泣いていたのだろう?」
 僕の頬に唇を寄せ、伝い落ちるものを舌で拭う。感じる彼の温もりに、いつもとは逆だな、と思った。掴まれている手からも、異常なくらいの熱を感じる。
「オレは不二が好きだ。それだけでは、不満か?」
 そう言ってキスをする彼の顔が、少し前の僕と同じくらいに歪む。僕はその問いに答えられないから。彼の腕を解くと、その身体を強く抱き締めた。
 さっき抱き締めた時とは違う、体温。温かいそれに、また、涙が零れそうになる。
「君と、違う人間だということがもどかしくて。こんなに傍に居るのに、こんなに好きなのに。同じ夢すら見ることが出来ないなんて、淋しすぎるよ」
「……そんなこと。お前がいつも言っていることだろう?」
 耳元で呟くと、彼は僕から身体を離した。肩を掴み、位置を入れ替えてくる。見下ろす僕に、彼は微笑った。
「違うから、ふたりで居る意味が在るのだと。同じ人間なら、ひとりで充分だ」
 僕の首に腕を回し、キスをする。求めてくるような舌の動きに誘われ、僕はそれに応えた。触れ合っている箇所が、酷く、熱い。
 このまま解けてしまえれば、と思う。けれど、そうはなってくれない。熱を感じるのは、そこに二人の温度差があるからだ。
 また少し、冷めていく。
「不二?」
「駄目、なのかなぁ」
「………何がだ?」
 キスをしていた所為なのか、それとも、僕の吐いた言葉の所為なのか。彼は顔を赤くすると、僕を睨みつけてきた。
「君と、僕が」
「お前はっ………オレのことが、好きではないのか?」
 今にも泣き出しそうな顔。僕は静かに首を横に振ると、彼にキスをした。
「好きだよ。好きって言うか、愛してる。愛しすぎて、怖いんだ」
 もっともっと彼を愛したら、きっと僕は、もっともっと冷めていく。ひとつになれない現実に、絶望して。
「だったら、これ以上お前はオレを愛さなくていい。これからは、お前の分も、オレがお前を愛してやるから」
 言って、いつも以上に熱いキスをする。唇を離して僕を見つめる彼の目からは、涙が流れていた。そして、僕の目からも…。





不二塚ですよ。ええ、不二塚ですよ。不二は好き過ぎて悩むタイプだと思います。
このままでは切なくなってしまうと思い、甘くしようと思ったら、なにがなんだか…。
結局、切ないまま終わってしまいましたね。(え?)
柴田淳『あなたとの日々』を否定してみた(笑)。
えー。でも、この曲は不二塚だと思うんだけどなー。今度、肯定した話を書こうっと。
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