「ねぇ、手塚」
 日が沈み、夜と呼ばれる時間になると、不二はいつもそう言ってオレの腕を引っ張る。陽の時間に合わせているから、夏なら遅く、冬なら早くなる。何故、暗くなってから言い出すのかは、分からない。ただ、タイミングが掴めないだけなのかも知れないが。
「いいでしょ?」
 オレを見上げる不二の眼は、いつもの自信に溢れたものではなく。ときには、潤んだそれで、哀願してくる。そしてオレは、そんな不二の手をいとも容易く振り払い、駄目だ、と余裕のある眼と、口調で言う。すると不二は、オレから静かに手を離す。
 このやりとりをするときだけ、何故か二人の態度が逆転する。普段もそうだが、特に体を重ねている時は、不二の方が余裕があり、そしてオレは恐らく不二が今しているような潤んだ眼をしている。筈だ。
 たが、態度では逆転していても、心の中はいつも通りだったりもする。オレは不二に誘われることで、余裕はどこにもなくなる。それを隠す為に、わざと余裕のある口調をとる。もしかしたら、不二もオレと似たようなもので、余裕があるからわざと切羽詰ったようにオレに聞いてくるのかもしれない。まぁ、そんな仕組みが分かった所で、何の意味も無いのだが。
「ねぇ。いいでしょ?」
 余裕が無いから。もう一度誘われたら、オレは頷くことしか出来ない。不二もそれを分かっているから、オレが本当に嫌がっているのかどうか、本当に自分がしたのかどうかを考えてから、二度目の問いかけをしてくる。今日は、どうやら不二もしたかったようだ。いや、もしかしたら、オレがしたいという気持ちを見抜いてのことなのかもしれないが。
「ああ」
 見つめる不二から眼を逸らし、頷く。もう何度もしていることなのに、未だ不二の眼を見て頷くことが出来ない。頬だって、赤くなる。いい加減、慣れたいと思っているのだが。だが不二は、それが良いと言う。可愛いね、と。そう言って、キスをしてくる。
「ね、手塚。おいで」
 長い口付けのあと、不二はオレから離れると、ベッドに座った。自分の隣を叩き、そこに来いと誘う。オレは黙って頷くと、不二の隣に座った。見つめ合い、また、キスをする。それだけで。オレの体は簡単に熱を宿してしまった。
 なんといっても、二週間ぶりだ。陽が沈んでいくにつれて不二が落ち着かくなっていくのにも気付いていたし、それを見てオレも早く誘ってくれないかと内心期待していた。
 不二はどうだか知らないが、オレは自分で自分を慰めるということを余りしない。不二に頼まれ、その目の前ですることは容易いのに。ひとりだと、どうしても躊躇ってしまう。それならそれで溜まらなければ問題は無いのだが、それもそうはいかないらしい。
 不二に慣らされたのかもしれない。そんなことも考えた。だが、不二とこういう関係になる前から、知識として自慰を知っていても興味が無く、することもなかったのだから、それは違うのだろう。まぁ、不二の所為だということにして、この先一生をかけてその責任を取らせるのも、それはそれで良い考えかもしれない。いや、名案だ。
「手塚。さっきから何考えてるの?」
 もっと僕に集中して。耳にわざと息を吹きかけるようにして囁くと、不二はオレの顔を覗きこんできた。見上げるオレと眼を合わせ、ふっ、と微笑う。もうそこには、さっきまでの切羽詰ったようなものはなく、余裕の表情しかない。そしてオレは、嘘でも不二を拒むなどという余裕すらなく、見上げる不二の顔が滲むほどに眼が潤んでいた。零れ落ちそうになる雫を、不二の舌が拭う。そうして離れようとする不二の頬を両手で挟むと、オレは出来る限りの長いキスをした。
「……手塚?」
「お前の所為だぞ」
 驚いたような、それでもどこか満足げな表情でオレを見つめる不二に、呟く。
「この責任は、一夜では足りない。一生かけて、取ってもらうからな」
 穴だらけのオレの言葉。それでも。不二は全て分かったとでも言うように微笑うと、静かに頷いた。
「この先訪れる僕の夜スベテを、君にあげるよ」





誘い受けなのかしら?ちょっと灰色な手塚。
手塚は自慰は余りしないで欲しい。不二の前ではしても(笑)。
温もりが伴わないと駄目なんだよ。手塚の快楽には不二の体温が絶対に必要なの。
ちょっと、説明臭い書き方になってしまってスミマセンでした。
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