「なかなか、難しいんだよね」
 その言葉と共に、背後から腕が伸びてきて。オレは不二に強く抱き締められた。まだ少し肌が湿っている所為で、いつもは温かいと感じるその体温は、殆んど判らない程だった。
「何が、難しいんだ?」
 回された手を解き、不二と向かい合うように寝返りをうつ。解いた手を再び身体に巻きつけると、不二は唇を重ねてきた。長いキスを終え、額を合わせて見つめ合う。
「君に本当の気持ちを伝えることが、さ。どうしても言えないんだよね。その言葉だけが」
 苦笑しながら、不二は言った。オレを強く抱き締めてくる。確かな優しさと温もりはそこにあるのに。不二の言葉に、オレの中には小さな不安が生れてしまっていた。
 どうしても言えない。という事は、今まで一度も口にしていないということだ。不二の、オレに対する本当の気持ちを。好き、という言葉ならよく聴いている。可愛いね、や、綺麗だよ、も。一度だけだけれど、大切だよ、と言われた事もあった。しかし、そのどの言葉の中も、本当の気持ちではない。だったら、他にどんな言葉がある?探してみても、別れの言葉しか浮かばない。
 不二は、オレのことを好きではないのか?
「好きってだけなら、幾らでも言えるのになぁ」
「………?」
 独り言つような不二の呟きに、オレの不安はあっさり消えた。しかし、今度は混乱がやってきた。
 色々と考えを巡らせているうちに、気が付くと、不二はオレを組み敷くような形で上にいた。頭にはてなを浮かべたままで見上げるオレに、苦笑する。
「手塚のことは、好きだし、大切だと想ってるよ。でも、どれも僕の気持ちを表すには足りない、しっくり来ないんだ。本当に伝えたい、伝えなきゃならない言葉は、もっと別の――」
 言葉を止めると、不二は溜息を吐いた。気を取り直すように、首を横に振る。再びオレを見つめると、優しく微笑った。
「ねぇ。手塚は、僕のことどう想ってる?」
「オレは…」
 不二が好きだ。そう言おうとして、言葉が止まった。恥ずかしいわけではない。何度か声にしたことだってある。だが、言う事が出来なかった。出来なくなってしまっていた。
 違う。はっきりと、思った。オレも、不二と同じだ。不二の事を好きだし、大切だとも想う。だが、そのどちらもオレの気持ちを形容する言葉としては違う。近いけれど、違う。
「………手塚?」
 間抜けに口を開けたままで固まってしまったオレに、不二ははてなを浮かべた顔で呼びかけた。慌てて口を閉じ、不二を見つめる。
「いつもみたいに、好きだ、っては言ってくれないんだね」
 少し、淋しそうな顔で言うから。オレは首を横に振ると、手を伸ばして不二の頬に触れた。
「違う。その言葉は、オレの本当の気持ちではない」
 好きも大切も含めた言葉。そして、それ以上のもっと特別な感情の言葉。
 そうだ。オレの本当の気持ちは、本当に不二に伝えるべき言葉は…。
「オレは、お前を――」
 言おうとして、声が、出なくなった。その眼を見つめて言う事が、どうしても、出来ない。
「手塚?」
「……っ」
 不二の頬を挟み、キスをする。そのまま手を不二の背に回すと、強く抱き締めた。その耳に、唇を寄せる。
「オレは、不二を愛してる」
 それだけを言い、手を離す。両手がベッドの上に滑り落ちるのとほぼ同時に、オレの眼からも涙が溢れていた。哀しいわけでもないのに。
「不二?」
 涙を拭い、見上げる。驚いたような顔をしていた不二は、オレと目が合うと、苦笑した。額を合わせ、見つめ合う。
「何か、狡いな。手塚は」
「?」
「僕はずっとその言葉を伝えたくて、伝えられなくていたのに。先を越されちゃった。でも、お蔭で、今なら僕も言えるような気がするよ」
 不二は額を離すと、代わりに唇を重ねてきた。オレの眼を、真っ直ぐに見つめる。
「僕も。手塚を愛してる」
 言うと、不二は微笑った。ような気がしたが、よくは判らなかった。オレの眼からは、再び涙が溢れていたから。





ああ、最後だ。切ないなぁ。
『夢』と被ったような気もしますが、こっちはこっちで別の意味があるので。
「愛してる」なんて滅多に口にしちゃ駄目ですよね。中学生。
というわけで。お付き合い、ありがとうございました。

絶対またやりますから〜!(年一くらいで不二塚祭が出来たらいいな)
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