「――でさぁ」
 殆んど頼み込むようなカタチで、手に入れた。オレを救ってくれた人。
 一度試合で傷つけちまったから、もう二度と傷つけることはしないって、そういう約束で、付き合ってもらってる。勿論、不二サンだけでなく他のヒトも傷つけることは許されない。
 けどオレだって、もう二度とあんなプレイはしたくねぇから。その条件は、丁度いいって思った。
 思ったんだけど。
「どうしたんだい?赤也」
「い、いや。何でもねぇっス」
 元々オレは乱暴な性格だったらしくて。大人しい日々を過ごしてるせいで、最近はやたらとイライラしてる。
「そう?でもなんか、僕の話、上の空っぽいよ?」
「不二サンが、綺麗だなって。ちょっと見とれてただけっスよ」
「なに、それ」
 オレの言葉に呆れたように返した後で、微笑う。その顔は、やっぱり綺麗だと思う。綺麗過ぎて、やたらとイラつく。優しく微笑いかけてくるたびに、嬉しいはずなのに、その笑顔をぶち壊したくなる。
 現に今だって。押し倒したくなるのを、必死で堪えてる。
 どうやら相当、ヤバイくらいにオレの破壊衝動は昂ぶっているらしい。ってか、なんか、もう駄目っぽい。
「赤也。やっぱり最近変だよ?どうかした?」
「………ねぇ、不二サン」
「ん……っ?」
 心配そうに覗き込んできた不二サンの頭を掴み、乱暴に唇を重ねた。そのまま押し倒して、組み敷く。
「あか、や?」
「オレたち、付き合ってもう3ヶ月になるのに、何もないって可笑しいと思いません?」
「………そう?」
 さっきまで、驚いた表情を見せてたのに。不二サンは一呼吸置くと、オレにまた微笑いかけてきた。苛立ちに、ギリ、と奥歯を噛み締める。
 ここで怯えてくれたりすれば、きっと、オレは何もせずに済んだのに。
 アンタが、悪いんスよ。
「破壊衝動。に、駆られることなんて。アンタには無いっスよね。アンタには無縁の世界っスもんね」
 もう人を傷つけることはしねぇと誓った時から押さえ込んでいた薄ら笑いを浮かべると、オレは不二サンの服のボタンを外し始めた。
 こんなことをしたら、きっとどんなに優しい不二サンだってオレを許してはくれないだろうって、分かるのに。それ以上に、この人の怯える様が見たくて。見たら後悔するって、それも分かってるのに。暴走した感情を止められない。
「けどオレは…。やっぱ、無理みたいっス。誰も傷つけないなんて。アンタのその余裕の笑みってやつ?見てると。壊したくなるんスよ。好きなのに」
 現れた白い肌。唇を寄せてきつく吸い上げると、綺麗に赤い痕が出来た。何となく、最初のヒビみたいなもんを入れた気がして、嬉しくなる。
「……なるほど、ね」
 けど。聞こえてきた声に顔を上げると、相変わらず不二サンは微笑ってオレを見つめていた。その顔は、相変わらず優しく…いや、違う。いつもの笑顔だけど、何かが違う。
「もしかしたら。僕たちは、似てるのかもしれないね」
「?」
「君と付き合うって決めた時、僕がそう言ったの、憶えてる?」
「………っス」
 覚えてる。思い出した。オレは、どこが似てるのか、全然分からなかったけど。
「やっぱり似てるよ。僕たちは」
「!?」
 不二サンの顔が、優しい笑顔から一転して鋭い目付きになる。そう思った瞬間、オレの視界が回った。見上げると、そこには、オレがさっきまで見せていたような薄ら笑いを浮かべた不二サンがいた。
「僕が穏やかなニンゲンだって。もしかして、そう思ってた?まさか。僕だって、破壊衝動に駆られるときくらいあるよ。けど、赤也が我慢してるんだからって、我慢してたんだ。でも、もう良いよね?君も、それを望んでるみたいだし」
 言うと、不二サンはもの凄い力でオレを押さえつけ、シャツを引き裂いた。舌を這わせ、きつく吸い上げてくる。
「っ」
「ただ、まぁ、似てないのは、赤也にはMっ気があるって所だよね。僕は痛いの嫌いだから。こんなことされても、全然感じないんだけどさ」
「はっ、ぁ」
 オレの上げる声にクスクスと微笑いながら、不二サンは体中にどんどん痣を作っていった。ときには噛み付いたりして。
 オレはと言うと、抵抗しようにも、何故か体に力が入ってくれなくて。耳を塞ぎたくなるような声を上げながら、ただ、不二サンのされるままになっていた。
「ねぇ、赤也。似たもの同士、なんか結構、上手くやっていけそうだね」
 似たもの同士?まさか。格が違いすぎる。
 一層愉しそうに微笑う不二サンに、オレはそう思いながらも。
「……そう、っスね」
 別の意味で上手くやっていけそうだと、頷いた。





平和すぎるとぶち壊したくなるもので。
赤也はM。不二はドS。
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