「ねぇ。少しは強くなった?」
 降ってきた声に後頭部を殴られ、睨みつけるように振り替える。
「部長を倒すとかなんだとかって大口叩いてたくせに、関東大会決勝じゃ、結局そこまで辿りつけなかったみたいだけど」
「……越前」
 ギリ、と奥歯を噛み締める。
「結局、大口叩いた割にはたいしたことなかったってことだよね」
 コイツは。オレの本当の目標である真田副部長に。真田副部長が幾ら本気でなかったとはいえ、勝った。
「へっ。オレの赤目に恐怖して倒れた奴に言われたかねぇな」
 腹が立つ。だから、あの時みたいに目を赤くさせて奴を睨みつけた。
 そのことに一瞬奴はビビったように見えたが、それはどうやら別のことに対しての反応だったらしい。
 次の時には軽い溜息をついていた。
「不二先輩っすか。おしゃべりっすね。あの人も」
「……悔しいか?」
 そうだった。テニスではコイツに負けたが。別のとこでオレは。手塚さんにも真田副部長にも勝った。
「別に」
「別に?……の割には、随分とつまんなそうな顔してんじゃねぇか」
「まさか。確かにアンタは不二先輩のものになったかもしんないけど。不二先輩をモノにしたわけじゃないんでしょ?」
 階段をおり、オレと同じ目線に立つと、奴は不敵に笑った。言っている意味がどうしてもヤらしい方へと向かう。
「どういう意味だよ」
「あの人を本当に捕まえておくことが出来るのかってこと。なんたってあの人は風だからね」
 なんだ。そんなことか。オレはてっきり夜の話かと思ったんだけどな。
「……知った風な口を。それはお前が部活での不二サンしか見てないからで」
「知ってるから、言ってるんスよ」
「んだと!?」
「赤也?」
 その襟元に掴みかかろうとした時、肩に乗った重みと声に。オレは動きを止めた。奴に触れることのないまま、振り返る。
「不二サン」
「……越前も。どうしたの?こんなところで」
「どうもこうも、ここはアンタが教えてくれたコートでしょ」
 だから、とその続きを含ませるように奴は言った。最早オレのことなど存在しないかのような視線。
 けど不二サンはそれを余裕ですり抜けると、肩に置いた手を滑らせてオレの指先と繋いだ。
「偶然ってことは、別に赤也は貰ってっていいんだよね?」
「アンタのもんなんでしょ。好きにしたら。それに、別にオレ、そいつ欲しくないっスから」  へぇ。コイツでもこんな顔するんだ。奴の歪んだ口を見ながら思った。色んな感情、それもマイナスの種類のものが混ざりあった表情。
 マイナスな感情?待て。それは何でだ?
「そう。じゃあ、遠慮なく」
 けど、オレの疑問をよそに、不二サンは何か含みのある笑顔を奴に渡すと、しっかりと指を絡めてオレの手を引いた。心半分なオレは、手を引かれて危なっかしく階段をおりてく。
 何故か足早な不二サン。別に怒ってるわけでも何でもないんだろうけど、何か喋らなきゃいけないような気がして、オレは思わず奴の悪態をついた。
「……相変わらず生意気っすね、あの一年」
 言ってから、もしかしたら振ってはいけない話題だったのかと思ったけど。不二サンは特に表情を崩すことはなく、ただ、うん、とだけ答えた。
 それが妙に苛立ったから。
「なんか不二サンのこと知ってるような口ぶりだったんすけど」
 少し、意地の悪いことを言う。
 けど、不二サンはまた、うん、と返すだけで。
「不二サンっ」
「知ってるからね。多分、赤也よりも」
 不意に足を止めたかと思うと、不二サンはオレを真っ直ぐに見つめて言った。
 その答えは残酷なものな筈なのに、何故か顔が赤くなる。
「君が、青学のヒトならよかったのにね」
 ああ、でもそれじゃあ、僕と赤也はあんな試合は出来なかったか。
「僕は。きっとあの試合を一生忘れないよ。何と言っても、僕を変えた試合なんだからね」
「それはオレも同じっすよ。不二サンとの試合があったから、オレは強くなれた」
「強くなれたの?ほんとに?」
「慣れましたっ。今度の決勝、不二サンには悪いけど。オレ勝ちますからね」
 いつもの調子を取り戻した不二サンに、オレもやっといつもの調子で言葉を交わせる。
 良くも悪くも、オレと不二サンを引き合わせたのはあのクソ生意気な一年なのかも知れねぇな。なんて思ってはみたけど、次の瞬間には不二サンと奴が折り重なってる姿が浮かんできて、感謝は止めた。
「赤也?」
 妄想を打ち消すべく激しく頭を左右に振ったオレを不思議そうに覗き込んでくるから。オレは不二サンの顔をがっちりと掴むと人目も気にせず唇を貪った。
 離した後で、感じる周囲の視線に酷く後悔はしたけど。
「家まで。走る?それとも。どっか探す?」
 嬉しそうに言う不二サンに、オレはとりあえず頷くと急かすように手を強く握り返した。





リョマはずっと自分の元だと思っていた不二が赤也のとこに行っちゃって苛立ってるんだ
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