「越前くん、おはよう」
「……はよっス」
 目を見ずに挨拶をすると、俺は足早に部室へと向かった。
 ……不二先輩は、苦手だ。
 なんて。こんなこと言うと、皆から反感を受けそうだから秘密にしてるけど。なんて言うか、苦手だ。
 皆が天使のようだという不二先輩の笑顔。その下に鋭い眼を隠し持っていることを知っちゃったからなのかもしれない。っていうより、知っちゃったからだ。あの日、雨の試合の日から、俺はあの人が苦手になった。
 あの人の前に立つと、どうしていいのか分からなくなる。向けられた鋭い視線に怖気づいたわけじゃないんだろうけど、どうしてか胸がドキドキいって、顔が強張ってしまう。
 怖い?違う。そうじゃない。なんか、もっと別の…。
 兎に角、俺は不二先輩が苦手だ。
 そういえば。妙な視線を感じ始めたのも、丁度その頃からだったな。
 俺が試合をしている時、誰かと話をしている時、不二先輩の方から妙な視線を感じる。気づいて不二先輩の方を見るけど。先輩は相変わらずの天使の微笑みで他の人と話をしていることがほとんどだ。たまに眼が合うときがあるけど、その眼はオレが感じてるような視線とは性質が違う。
 ……なんなんだよ、一体。
 疑問には思うけど。このことは誰にも相談なんて出来ない。自意識過剰だと言われるか、小坂田さんあたりの視線だろうと言われるのがオチだし。
 確かめて、みる?
「不二先輩。ちょっと、俺と打ってくれません?」
「……それって、真剣勝負ってことかい?」
「いや…そう言うんじゃなくていいっスから」
「僕は別に真剣勝負でもいいんだけど。……そうだね、勝手にそんなことしたらまた竜崎先生に怒られそうだし。いいよ、軽く打とうか。丁度コートも空いたみたいだしね」
 ほら、また胸がドキドキする。ラケットを握る手に、じんわりと気持ちの悪い汗。不二先輩はそんな俺の状態に気づいてるのかいないのか。よく分かんないけど。何故かいつもよりも多く微笑っているみたいだった。
 突然、腕を掴まれる。
「何、すんすかっ」
「何って。別に。呆っとしてるみたいだから、コートまで連れてってあげようと思ってさ」
「……それはどーも。でも、大丈夫っスから。離して、ください」
「本当に大丈夫?少し、顔赤いけど。熱でもあるんじゃないの?」
「熱なんてないっスよ。あったら、不二先輩と打ち合いしようなんて言わないっス」
 額へと向かってきたその手を避けると、俺は先輩の手を解いてコートへと向かった。その後ろから、あの視線と、小さな微笑い声。
「そう?越前くんから話し掛けてくるなんて珍しいから、てっきり熱があるのかと思ったよ」
「……っ」
「ねぇ。あの日から、僕のこと避けてるよね?」
 肩を掴まれて。振り返ると、不二先輩の顔が、すぐそこにあった。変な汗が、一気に掌から噴出す。俺を見る不二先輩の眼は、あの妙な視線と同じ性質のものだった。色んな感情がごちゃ混ぜになった視線。唯一感じ取れるのは、微かな怒りの感情だけ。
「別に、避けてなんか…」
 否定する俺の言葉を無視すると、先輩は背筋を伸ばし、あたりをさっと見回した。その後で、再び背中を丸めて俺に顔を近づけてくる。
 って。なんか、近づきすぎ――。
「っ!?」
「ふふっ」
 目を丸くした俺に、不二先輩は楽しそうに微笑うと、俺と触れた箇所だと思われるところをぺロリと舌で舐めた。もう一度、微笑う。
「さて。行こうか」
「……行くって、どこに?」
「コートに決まってるじゃない。早くしないと、英二たちに取られちゃうよ?」
 手を伸ばし、俺の頭をくしゃっと撫でると、不二先輩はそのままスタスタとコートの方へと歩いていってしまった。今度は、俺の手を引かずに。
 何が、起きた?
 思い出した途端、急に恥ずかしくなって。俺は自分の顔に熱が集まっていくのを感じた。多分、顔は真っ赤に染まってるだろう。
 そんなことより。何で不二先輩はあんなことをしたの?何で俺は心臓が破裂しそうなくらいにドキドキしてるの?
「………う、そだ」
「ほら、越前くん。早く打とう」
 背後で不二先輩が呼んでる。でも、俺はもうそんなことはどうでもよくなっていた。
 だって、意味までは分からなかったけど、取り合えず視線の正体は分かったし。それに、何で俺が不二先輩を苦手になったのか、まだ俺自身信じることは出来ないけど、分かっちゃったし。
 でも、その代わり。他の疑問は出てきた。
 不二先輩の、気持ちが、分からない。
「ねぇ、越前くんってば」
 他の音が掻き消されて、先輩の声だけが俺の頭の中で響く。また、あの視線を感じる。
「…………」
 俺は、頬の赤みと胸のドキドキを消すために、深呼吸をした。それでもまだいつもみたいに冷静でいられる自信が無いから。帽子を目深に被り直した。
「今、行きますっ」





もしかして、穴だらけ?
まぁいいや。そう言うわけで。不二→←リョでした。ん。どっちも片想い(笑)
不二の視線はねっとりと。リョーマの腹チラを…。(えーっ)
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