「あーあ。明日は学校っスね」
僕の膝の上でゲームをしながら、つまらなそうに彼が言った。そうだね、と僕も退屈そうに答える。
「やっぱ今日、泊まってっちゃ駄目っスよね」
「駄目っスねぇ」
つまらないから。彼の口調を真似して答えてみる。すると、彼は、はぁ、と余計つまらなそうな溜め息をついた。
ゲームを消し、僕の頬に自分の頬をくっつけるようにして、寄りかかる。
「セーブしなくていいの?」
「だってこれ、もう何回もクリアしてるっスから」
「ああ、だからか」
ぼうっとしてるときと似たような眼をしていたのは。
何かの本で読んだけど、ゲームは慣れてくると脳はさほど働かなくなるらしい。それが格ゲーやパズルでも。
まぁ別に、僕はゲームは暇潰し程度で呆け防止としては考えてないからいいんだけど。
何度もクリアしたゲームを未だにやってる彼も、きっと暇潰しなのだろう。
………僕が、いるのに?
まぁ、いいけど。
「……だから、何?」
一人で納得していると、彼が半分睨むように僕を見つめてきた。何でもないよ。そういう意味を込めた視線を返す。
「まぁ、いいっスけど。ヤだなぁ、学校」
僕の顔すれすれに手を伸ばすと、彼は大きく伸びをした。一度僕の膝から降り、次は向かい合うような形で座る。
「ねぇ。学校、サボっちゃいません?」
僕の肩に両腕をかけると、猫が甘えるように彼は額を重ねてぐりぐりと押し付けてきた。
骨伝導と言うやつなのだろうか。彼が首を左右にねじる度、ゴリゴリと低い音が頭に響いた。
暫く放っておいたけど。いい加減額が痛くなってきたので、僕は彼の顎を掴みキスをすることでそれを止めさせた。
「いいんじゃない。サボりだってこと、黙っててあげるよ」
額を合わさず彼を見つめると、僕は微笑った。それとは反対に、彼の顔が曇る。
「分かってます?俺が学校をサボるってことは、アンタも学校をサボるってことなんスよ」
「……何で?」
「俺だけサボったってアンタがサボらなきゃ意味ないからっスよ。俺は、アンタと一緒に居たいからサボろうって言ってんのっ」
少々興奮気味に言うと、彼は、はぁ、と溜め息を吐いた。
「折角これから二人きりの夏休みだってのに…」
「何言ってるの。登校日って言ったって授業するわけじゃないんだし。午前中には学校終わるんだよ?」
「それでもイヤなんすよ」
せめてアンタが後二年遅く産まれててくれたら。溜め息混じりにぼやく彼に、僕は苦笑した。だってそれは彼にも言えることだし。それに、彼と同級生の自分なんて想像もできなかった。
「アンタと一緒に居られる時間は、一分一秒でも無駄にしたくないんス…」
背を丸め、僕の肩に額を乗せる。少し首を振り額を押し付けると、彼はそのまま黙ってしまった。
なだめるようにその頭を撫でながら、僕は苦笑した。
無駄にしたくない、だなんて。僕の膝で暇潰しのゲームをしている人が言う台詞じゃない。その言葉は、凄く嬉しいんだけどね。いまいち、説得力に欠けるかな。
「……アンタは、そうは思わないんすか?俺だけ?」
でも彼は僕の考えなんて読めるはずもないから。何も言わずただ髪をすいている僕に、不満と不安の混ざった声で呟いた。
「そうだなぁ」
溜め息混じりに言って、体を離す。今にも泣き出しそうな彼に苦笑すると、僕は触れるだけのキスをした。
「リョーマとは一緒に居たいし、その時間を無駄にしたくないとは思うけど。だからこそ、離れなきゃなって思うときもあるよ」
「?」
「だから、どんなに楽しいことでも、ずっとやってたら飽きちゃうってこと。たまに辛いことを挟むから、余計にそれを楽しく感じられるんだよ、きっと」
「……じゃあ明日はスイカの塩ってこと?」
「まぁ、僕と一緒に居る時間を甘味に例えるなら、そんなところかな」
彼の例えに微笑いながら頷くと、ようやく納得したのか、彼も微笑った。
「じゃあ、明日はちゃんと学校に行くね?」
「……その後、泊まってもいいなら」
仕方ないといった感じの言い方。本来その口調をとるのは僕の役目なんだけど。まぁ、いい。彼がやっと学校に行く気になったんだし。
「勿論。折角塩を降ったんだから、効果が薄れないうちに食べちゃわないとね」
言って微笑い合うと、小指を絡ませるかわりに僕達は深く舌を絡ませた。
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