ウトウトとまどろみ始めたころ、カラと窓の向こうで音がした。カルピンが屋根を歩いているのかと思ったけど。そういえば、最近寒くなったからって俺と一緒に寝るようになったんだった。今だって、布団の中、俺の腹の横っちょで丸まってる。
 じゃあ、何の音だ?
 風の音かと耳を澄ますけど、そんな音はどこにもしなくて。シンとした部屋に、ただ重い瓦の音だけが響いてきた。
 ちょっと、怖い。かもしれない。
「カル、じっとしてろよ」
 布団の中に向かって小声で呟くと、そのまま布団を頭まで引っ張った。その中で、カルピンを抱きかかえるようにして丸くなる。外では、まだ瓦の音が聞こえていた。
 と。突然、電子音が鳴り響いた。
 慌てて布団から手を伸ばし、それをとる。開いた画面を見ると、不二周助という名前が表示されていた。
「あ。やっぱり起きてた」
 今の心理状態とは正反対の間の抜けた声。クスクスと微笑うその向こうからは、微かに風の音が聞こえた。
「ねぇ、リョーマ。雨戸閉めないと、朝、寒くない?」
「へ?」
「ねぇ。泥棒か何かだと思った?」
 コンコンと窓を叩く音。それとほぼ同時に、携帯からもコンコンと音が聞こえてきた。
 まさか、と思い布団から少しだけ顔を覗かせる。
「おはよう、リョーマ」
 どうやら、そのまさかだったらしい。
「何やってんスか…」
 俺と目があった先輩は、携帯片手に、窓越しに手を振っていた。

「星が、綺麗だったからさ。リョーマにも見せたいと思って」
 大丈夫、と俺に手を伸ばしながら、先輩は言った。吐く息が、白い。
「だったら電話だけにすれば良かったのに」
「一緒に見たかったからさ」
 引っ張られて屋根に登った俺に、先輩は両手を広げた。本当は膝に座りたかったんだけど。屋根の上で胡座をかくのも危ないだろうな、と思って。俺は大人しく先輩の膝に挟まれることにした。瓦の冷たさと先輩の温もりを、同時に感じる。
「だったら、屋根登ってこなくても」
「こんな時間だしさ。それに、ちょっと、リョーマの驚いた顔も見たかったしね」
 まぁ、見れたのは、怯えた顔だけど。クスリと微笑いながら言うと、先輩は俺の頬に自分のそれをくっつけてきた。温かい、という言葉が、白い息になって俺の前を通り過ぎた。
 身体に回された先輩の手に自分の手を重ねながら、考える。俺を驚かす為に屋根を登ってきた先輩。その姿は、少し滑稽で、微笑えた。
「……何、微笑ってるの?」
「アンタの妙な愛情にさ」
「嬉しいなって?」
「ま、そんなとこっスかね」
 俺の首筋に顔を埋めながら言う。あたる吐息がくすぐったくて、俺は微笑いながら頷いた。
 暫くそのまま黙っていると、思い出したように先輩が俺から顔を上げた。
「そうだよ。星、見に来たんだから。リョーマの項ばっかり見てたらいつもと同じだよ」
 言って俺の頬にまた頬をくっつけてくる。右手を俺から離すと、促すように宙を指差した。俺も、素直に宙を見上げる。
「ね、綺麗でしょう?」
「……そうっスね」
 揺りかごみたいに身体を揺らしながら訊く先輩に、俺は頷いた。満足げに、先輩が微笑う。
「流れ星、見れるかな?」
「どうっスかね」
「ねぇ。流れ星、見つけたら。リョーマは何を願う?」
「………アンタは?」
 訊き返す俺に、先輩は、そうだなぁ、と余り困った様子もなく呟いた。俺の手を解き、頬に触れる。
「リョーマとの、永遠の愛、かな」
 言って無理矢理に俺に後ろを向かせると、先輩は触れるだけのキスをした。どう?と微笑い、俺の顔を覗きこんでくる。
「す、きにすれば」
 赤くなった顔を見られないように。俺は先輩の手を頬から引っぺがすと、前を向いた。もう二度と後ろを向かされることがないよう、先輩の手に指を絡め、しっかりと握り締める。
「言っときますけど、俺はそういった類の願い事はしませんからね」
「あー。流れ星、見れないかなぁ」
「って。人の話、聞いてます?」
「聞いてるよ。……そうだよね。そう言うのは、願うものじゃなくて、自分で叶えるものだよね」
「……そういうことは、言ってないっスけど」
 呟く俺に、先輩はクスリと微笑うと、手を解いて立ち上がった。足場を確認してから、俺に手を差し伸べてくる。
「……何スか?」
「いいから」
 見上げる俺にまた微笑うと、先輩は半ば強引に俺の手を取った。足元に気遣いながら、俺を立ち上がらせる。
「リョーマの言う通り、君との愛は願わずに、自分で叶えるものにするよ」
「……だからそんなこと、誰も言ってないって」
「だから、今、誓うね」
「ねぇ。俺の話聞いて――」
 肩を掴み、俺の言葉を遮るように唇を重ねると、先輩は微笑った。
「僕は永遠に、君を愛すよ」
 真剣な眼。そのまま俺と目を合わせた状態で見上げるから、俺も導かれるようにして思わず宙を見上げてしまった。
「この星に、誓うよ。彼らが、証人」
 見上げる俺の視界に蒼い星が入り込んでくる。それは真っ直ぐに俺を見つめた後で、ゆっくりと細くなった。背と、唇に、温もりを感じる。
「……身体、冷たいね」
「別に。こうしてれば温まるから平気っスよ」
 先輩の背に腕を回して呟くと、再び赤くなってしまった顔を見られないように、俺は強く先輩を抱き締めた。





以前、365題『永遠』で、不二がリョーマに甘く永遠を誓ってたら――みたいなコメントが合ったのを思い出しまして。誓わせて見ました。
しかし熱に浮かされながら書いたのでなんとも…。BGMはGARNET CROWの『夜更けの流星たち』で。
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