アンタの本気がみたい。
 君が本気を出してくれるのなら、ね。

 避けられた。笑顔で、あっさりと。俺の、本気の言葉を。
 いつだってそうだ。あのヒトは余裕の笑みで。俺だけ必死なんだ。
「余裕そうに見えてるだけだよ。中を覗いて見れば、案外必死かもしれないよ?」
 俺だけ余裕がないみたいで、なんかズルイ。そう呟いた俺に、不二先輩は微笑いながら言った。言うけど。その笑顔の何処が必死なのか、俺にはさっぱりだ。
「だったら、中身、見せてくださいよ」
「残念。それは出来ないんだな」
 クスクスと楽しそうに微笑うと、先輩は俺の頭をクシャクシャと撫でた。でも、何で僕の本気なんて見たいの?なんて。難しいことを訊いてくる。
「……本気じゃないアンタを倒しても、面白くも何ともないじゃないっスか」
 苦し紛れの言い訳。本当のところ、理由なんて自分でも良く分からない。本気でテニスの試合をして見たいとも思うけど。きっと、多分、それが理由ってわけじゃない。
「その言い方だと、本気を出した僕よりも君の方が強いって聞こえるんだけど?」
「そんなの知らないっスよ。アンタの本気なんて見たことないんスから。ただ、本気を出さないアンタには負ける気はしないっスよ」
 先輩の言葉に少し焦ったけど。ここで弱気になったらからかわれるだけだと思い、俺は強気の口調と視線で返した。けど、それもまた、笑顔であっさりと避けられてしまった。
「そうだね。本気も出してないのに、本気の君に勝ったら失礼だよね」
「……その言い方だと、なんか、本気なんか出さなくても俺に勝てるって言ってるように聞こえるんスけど?」
「さぁ。どうだろうね」
 また、微笑う。やっぱり、余裕じゃんか。
「そうでもないよ」
 俺の心を読んだように、先輩は呟いた。見上げると、先輩はいつもの余裕の笑みではなく、苦笑いを浮かべていた。
「これでも必死なんだよ?君に本気を見せないようにするのに」
「………なに、それ」
 ワケの分からない先輩の言葉に、聞き返すけど。
「さぁ、何でしょう?」
 先輩の顔はすぐに余裕の笑みに戻ってしまった。それも、さっきの苦笑いが俺の見間違いだったんじゃないかって思うほどの、綺麗な――。
「どうかした?」
「……別に」
 見惚れてたのを見抜かれたかと思って、俺は俯いた。からかわれると思って。けど、先輩はそれ以上、言葉を連ねてこなかった。かわりに、俺の頭をクシャっと撫でる。
「ほら、今の僕、凄く必死」
「――え?」
「本気で君を抱き締めたいと思う気持ちを、抑えるのに。凄く必死なんだ」
 顔を上げた俺に言うと、先輩はまた微笑った。
 誰にも秘密だよ、と俺の目の前に、ピンと立てた人差し指を持ってくる。その指から先輩へと視線を移すと、先輩は滅多に見せてくれない真剣な眼で俺を見ていた。
「僕はいつでも本気だよ。君に対してはね。だって本気で好きなんだから、しょうがないよね」
 でも、これは僕と越前くんだけの秘密。目を細めながら言うと、先輩はピンと立てた人差し指を俺の唇に押し当て、そして微笑った。
 そのとき俺はと言うと、自分の鼓動が速くなっているのを隠すのに、やっぱり必死になっていた。





本気、というよりは、必死、ですね。まぁいいや。
テニスに対して本気云々って言うのは、飽きるほど書いてきましたので(といっても、不二リョではそんなに書いてないのかな?)、こんな感じにしてみました。
視線に続いて、またしても、不二→←リョです。
もう、隙あらばリョーマを犯りたいらしい不二は、その衝動を抑えるのに必死とかだったらいいな(笑)
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