鋭い視線や言葉、性格なんかは、ナイフに例えられることが多い。
 でも彼はそうじゃない。棘のようだと、思う。
 痛みは一瞬の小さなものだから。刺さったことには気付かなくて。でもそれは僕の知らない間に体内に毒を送り込んでいる。ゆっくりと、けれど、確実に…。
「なんスか?」
「いや。いつの間に僕はこんなにリョーマが好きになったのかなって」
 気が付くと全身に回っていた毒。それはまるで麻薬みたいに、僕を彼に依存させる。でも、その感覚は嫌いじゃない。
「何言ってんスか」
 呆れたように溜息を吐くと、彼は僕の首に腕を絡ませてきた。深く、口づけを交わす。
「だって初めは、リョーマの方が僕を好きだったでしょう?」
「今もっスよ」
 ほら、また。じわり、と。抜けない、抜かない棘から毒が染み出してくる。
 初めは、遊びのつもりだった。退屈していたし、刺激が欲しくて。だから、彼の方が僕を好きだった。なのに、今は…。
「今は、僕の方がリョーマを好きだよ」
 クスリと微笑い、また、キスをする。唇を離すと、彼は不満そうな顔をしていた。
「嘘吐き」
「嘘じゃないよ」
「だったら、俺がアンタに勝てない理由を説明してくださいよ」
「何、それ」
「そうやっていつも微笑って…」
 苦笑する僕に、彼は頬を膨らせた。その姿が可愛くて。強く、抱き締める。暫くそうしていると、彼は呼吸が出来ないのか、もぞもぞと動き出した。僕の胸から顔を出す。
「惚れた弱みって言葉。知りません?」
「……よく知ってるね。でも、あれこそ嘘だよ」
 言って額に唇を落とすと、僕は微笑った。けど、相変わらず彼は頬を膨らせたまま。そうしている間にも、僕の全身には越前リョーマという毒が回っていく。時間が経てば経つほどに、どんどん好きになっていく。
「どうしたら、僕の方が好きだって分かってくれる?」
「それくらい自分で考えれば?」
「これでも、考えてるんだよ。でも、それじゃ納得してくれないから。だから訊いてるんじゃない」
「……無駄だと、思いますよ」
 はぁ、と溜息混じりを吐いた僕に、やっとのことで彼は微笑うと呟いた。けど。何で、と訊き返したら、すぐに笑顔を消し、顔を赤くしてしまった。
「リョーマ?」
「……俺の方がアンタを好きだから。初めから、今も。これからも」
 最後の方は注意しておかないと聞き取れないくらいの声で呟くと、彼は僕の胸に顔を埋めた。猫のように、額を擦り付けてくる。
「参ったね」
 彼の髪を撫でながら独り言ちる僕の体には、甘い毒を持った新たな棘が、無数に刺さっていた。





雰囲気暗いよね。いや、そう言うイメージで書いたからいいんだけど。
365のお題に『毒』って言うのがあってね。それのコメントを参考にしつつ。
まぁ、コメントではお互いに依存性のある毒ってあったんですけどね。とりあえず、不二だけで。
前回が黒不二だったので、黒リョマにしようと思ったんだけどね。駄目でしたね。やっぱリョマは可愛くないとね。
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