こんな時間に、ベッドの上ですることっつったら、一つしかない。なんて思うのは、俺が大人な考えをしているからなのか、それともガキだからなのか。
「ねぇ、周助」
「うん?あ。もしかして、明るいと眠れない?」
 呼びかけた俺に、周助は本から顔を上げると言った。首を横に振り、電気を消そうと伸ばした手を取る。
「違う。別に、電気なんて点いてても眠れるし」
「あ。そうだったね。リョーマは何処でも眠れるんだった」
 本を閉じ、体ごと俺の方を向くと、周助は微笑った。そのまま体を寄せ、触れるだけのキスをしてくる。俺はそれだけじゃ勿論物足りないから。唇が遠く離れる前に追いかけると、深いキスをした。
 唇を放した周助は、少し、驚いたような顔をしていた。
 それが少しムカついたし、傷ついたりもしたから。
「……帰ります」
 顔を背け呟くと、俺は体を起こした。体重を支えている腕を、掴まれる。
「駄目だよ。今日は泊まっていきなって」
「……だって」
 どうせまた、寄り添って一緒に寝るだけなんでしょ?それだったら、家で一人で寝てた方がましだ。
 本当は、周助としたいって言えれば楽なんだけど。それを言って笑われたら嫌だし。断られるのも嫌だし。OK貰っても、なんかそれじゃ、俺ばっかり好きみたいで嫌だし。
 好きなんだけど、たまには、少しくらい、周助の方から…。
「危ないから。一人だと。誰かに襲われちゃうかもしれないよ?」
 でも、俺の気持ちなんて全然知らないから。周助はとんちんかんなことを言うと、俺の腕を折ってベッドに寝かせた。
 覗き込んでこようとするから。俺は思いっきり顔を背けてやった。
「……恋人にすら襲われないのに、知らないやつに襲われるわけねーじゃん」
 ボソリと、呟く。
「ん?なんか言った?」
「何でもないっスよ」
 訊き返してくる周助に、俺は強く言った。深く、溜息をつく。
「ってかさ、だったらアンタが俺を家まで送ってくださいよ。アンタがなかなか離してくれないから遅くなったわけだし」
「あー。アンタって。何?機嫌悪いの?」
「……見て、分かりません?」
「だって遅くなったのはリョーマの責任でもあるんだよ。さっさと宿題終わらせないから」
 また、とんちんかんな答え。なんか。わざとやってるんじゃないの?
「アンタが邪魔しなきゃ、とっくに終わってましたっ」
「それに、リョーマを送ったあと、僕一人で帰ったら襲われちゃうし」
「は?」
 頭にはてなを浮かべて振り向いた俺に、待ってましたとばかり周助は微笑うと、また触れるだけのキスをした。顔を背けられないよう頬をしっかりと両手で挟み、額をくっつけてくる。
「僕って案外女の子に見えるらしくてさ。ねぇ、襲われちゃったら、どうしよう?」
「……大丈夫っスよ。アンタがいつもの禍々しいオーラを放っとけば、誰も寄ってこないっスから」
「あーあ。どうしたら機嫌直してくれるのかなぁ」
 睨みつけたつもりなのに。周助は楽しそうに微笑いながら、全然困った風でもなく、困ったなぁ、と呟いた。困った困った、と繰り返しながら、額を擦る。
「ねぇ。どうしたらリョーマが機嫌か直してくれると思う?」
 まるで菊丸先輩なんかに問うような口調。いい加減本当に頭に来たから、俺は両手をつねって離させると、周助に背を向け、布団を頭まで被った。
「そんなの、自分で考えてくださいよ」
 布団の中で話すから、くぐもった声になる。なのに、そうだなぁ、と呑気に呟く周助の声は妙にはっきりと聞こえた。
 でもそれだけで。その後は沈黙が続いた。
「……しゅう、すけ?」
 もしかして、今度は周助が拗ねた?
 そう思って布団から顔を出す。出したはずなのに、視界は真っ暗だった。口内を割って入ってくるぬるっとした感触に、俺は今、キスされてるのだと分かった。それも、滅多にして来ない深いやつを。
「っ、はっ…」
 滅多にして来ない、というか、こんなに長いのは初めてで。まだ離したくなかったのに、息苦しさに俺は思わず唇を離してしまった。ふと見ると、周助と俺のを結ぶ銀色の糸みたいなのが出来ていて。俺は顔を赤くした。
「何照れてるの。ね、機嫌、直った?」
「こ、んなもんで直るわけないっしょ。俺、そこまで単純じゃないっスから」
 呼吸を整え、周助を睨む。そっか、と軽い調子で呟くと、今度はもぞもぞと移動し、俺の上に覆い被さった。
「じゃあ、さ。リョーマが機嫌悪くした根本原因、解消しちゃおうか?」
「へ?」
 再び頭にはてなを浮かべた俺に、周助はクスクスと楽しそうに微笑うと、キスをしてきた。また深く長いものかと思って身構えたけど、今度はあっさり唇を離してしまった。
「ねぇ。本当は僕にどうして欲しいの?言ってご覧よ。リョーマの望む通りにしてあげるから」
 言いながら、指先で、服の上から俺の体をなぞる。
「……っ、意地悪」
「うん。まぁね」
 本当は、俺のしたいこと、知ってたんじゃん。もっといっぱい悪態を吐きたかったけど、最初の一言は肯定されちゃったし、望んでた刺激に思考が回らなくなり始めてて。言葉が、出てこなかった。
「ほら、言わないと、いつまでもこのままだよ?」
「……っ。それって、俺が言わなけりゃ、アンタもいつまでもそのままってことっスよ」
「うーん。そうか。それは困ったなぁ」
 言い返す俺に、周助はやっぱり余り困っていない声で言った。
「まぁ、じゃあ、僕はもう寝ようかな」
「えっ?」
 笑顔で言うと、周助は俺の体から退いた。仰向けになり、布団を肩までかける。
「だって、リョーマが言ってくれないんじゃ、あのまま焦らしても僕が辛いだけだし」
「……アンタ、結局、何がしたいんスか」
「んー。リョーマの方から、可愛くねだって欲しかったなって。ずーっと待ってたんだけどね。失敗失敗。じゃ、オヤスミ」
「オヤスミって、ちょっ…」
 俺が止めるよりも先に、周助は電気を消してしまった。真っ暗な中で、わざとらしいほど安らかな呼吸が聞こえて来る。
「し、しょうがないっスね。アンタがそんだけ言うなら」
 言い訳を声にし、コホン、と咳払いをすると、俺はもぞもぞと周助の上に乗った。ギュッと抱き締めて、その耳元に、唇を寄せる。
「ねぇ、俺と―――」





ヒョウヒョウ不二。翻弄されるリョマ。そんな関係。なかなか先に進まないと言うのも書いてみたかったワケで。
オマケ↓
「アンタにしては、良く耐えられましたね」
「いやぁ、リョーマがこんなにも素直じゃないとは思わなくてサ。本当に参ったよ。まぁ、爆発しそうになったときは、羞恥に打ち震えながら僕を求めるリョーマを想像して抜いてたりもしたんだけどね」
「………っ」
「良く頑張ったなぁ、自分」
「ってか、だったらアンタの方から言ってくれれば…」
「それを耐えるのが、面白いんじゃない。それに、溜まってた分、こうして一気に出せたわけだし。ね、善かったでしょ?」
「……そ、ういうこと。訊かないでくれます。恥ずかしい」
「そうだね。素直じゃないリョーマに訊くよりは、素直な身体に訊けば手っ取り早いね」
「って、ちょっ。まだやる気っ……ぁ」
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