「っは」
 中を深く抉られる。でも、一番抉られてるのは、心なんだ。
「しゅ、すけ」
「……リョーマ」
 名前を呼べば、俺の名前を呼んでくれるのに。
「好き」
「……うん」
 想いを告げれば、受け入れてくれるのに。
 俺を見つめる蒼い眼に、映ってるのは。俺じゃない。
「好きだよ」
 囁くような言葉と共に、先輩の眼から、完全に俺が消える。途端、その動きは熱く激しくなるんだ。普段の先輩とは違う、余裕なんて何処にもない顔で。俺を攻め立ててくる。
「ぁ。はっ」
 体は容易く熱くなるのに。それとは逆に、俺の心は恐ろしいくらいに冷めて行く。俺を見ているのに、俺を映していないその眼を見るのが嫌で。強く、目を瞑る。すると、余計に先輩の熱い吐息とか体温とかを感じちゃって。俺の心は、きゅ、って締め付けられる。
 苦しい。
 それでも離れられないのは、きっとそれだけ、俺が、この人を好きなんだからだと思う。
 好きって言ったのは、俺。こういう関係を望んだのも、俺。先輩はただそれを受け入れただけ。でも、それでも良かった。先輩の眼に映ることが出来れば。アイツから先輩の視線を奪えれば。
 なのに…。
 気づいたのはつい最近。それまでは慣れない行為に、痛みを和らげるのに、必死で。先輩が何処を見ているのかなんて、誰をその瞳に映してるのかなんて、気にする余裕はなかった。
 知らなかったんだ。俺にアイツの影を重ねてたなんて。
 ずっと、先輩は俺を好きになってくれたものだと思ってた。いつだって優しい眼で、俺に微笑いかけて。ときどき、強く真っ直ぐな眼で、好きだよ、って言ってくれてたから。
 忘れてたんだ。先輩は嘘が上手いってこと。
 ずっと、気づかずに浮かれてたなんて。バカみたいだ。
「好きだよ」
 聴こえてくる、掠れた声。それから少し遅れて、先輩は俺の中に全てを吐き出した。それを感じて、俺も、吐精する。心の痛みも、一緒に。
「はぁっ、はぁっ」
 荒い息をなんとか整え、俺の上で呆然と見下ろしている先輩に手を伸ばす。
「周助」
 名前を呼んで、じ、と見つめる。
「……リョーマ」
 やっとのことでその眼に俺を映した先輩は、自分の頬に当てられている俺の手に触れると、優しく微笑った。そのまま顔が近づいてきて、キスを交わす。
「好き」
「うん。僕も。好きだよ」
 嘘吐きって、いつも言いたくなるけど。その眼に俺が映ってることが嬉しくて、何も言えなくなる。先輩の嘘はもう俺の見えるところにはない。その蒼の、一番深い瞳のさらに奥。そこに隠されてしまったから。
「好き」
 もう一度呟いて、先輩の、汗で湿った体を強く抱きしめる。伝わってくる、穏やかな体温。もう、心の痛みは無い。
 もっと重ねればいいんだ。俺とアイツを。もっとずっと重ねちゃえば。きっと、どっちが嘘でどっちが本当か分からなくなるだろうから。
 どうせ俺は、この人から離れられないんだから…。





ナチュラルに事の最中ですが。
言い訳を一つ。このお題だと、切なくなるのは致し方ないですよ。ええ。
というわけで。アイツが誰なのかは、ご想像にお任せします。
不二リョはリョーマ視点の方が書きやすいのかもしれません。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送