「台風の後の青宙(アオゾラ)って、また格別だよね」
 俺の隣に座ると、先輩は大きく宙を仰ぐようにして伸びをした。ベンチの上に足を乗せ、俺に寄り掛かってくる。
「重いんスけど」
「いいじゃない、偶にはさ」
 別に、膝に乗ろうとしてるわけじゃないんだし。ぐ、と俺の肩に後頭部を押し付けながら、先輩は言った。ムカつくから。斜めになりそうな体を何とか保ち、まるでそこに先輩が居ないかのように、普通にファンタを飲んでやる。
「ねぇ、見てよ。真っ青だよ、宙」
「そうっスね」
 指差すその先を見つめると、俺は頷いた。雲ひとつない宙は、確かに、青い。
「空気は透明なのにさ、宙は空気が澄んでれば澄んでるほど青が濃くなるなんて、何か良いよね。科学云々は抜きにてさ」
 先輩の言葉に、俺は今度は頷かずにファンタを飲んだ。途端、無くなる負荷。斜めにならないように力を入れていた所為で、少しだけ先輩の方に体が傾いたけど。また体勢を立て直すと、俺は空になった缶を咥えたまま、宙を眺めていた。
 それを邪魔するように、もっと深い青色が視界に入ってきた。
「……先輩、邪魔」
「ねぇ、リョーマ。僕の眼と、どっちの青が好き?」
 俺の口からファンタの缶を奪うと、帽子も奪い、唇を重ねた。
「知らないっスよ、そんなの」
 呟いて、先輩の手から帽子だけを取り返すと、先輩から唇を守るためと赤くなった頬を隠すために、顔半分を覆うようにして乗せた。もっと深くベンチにもたれかかり、また、宙を見上げる。
 真っ青な宙。怖いくらいに、深い、青色。飛び込んだら何処までも落ちて行きそうな。俺の好きな、色。
 宙なんて、今まで興味がなかった。青色なんて大して好きじゃなかったし。俺は好きなもの以外はどうでもいいって感じだから、嫌いじゃないけど、本当にどうでも良かった。
 なのに。
「ん?僕の顔、何かついてる?」
「……別に」
 覗き込んで来ようとする先輩の眼から逃れるように、俺は帽子を目が隠れる位置までずらした。顔が、熱い。
 ある時、ふと気づいた。雨上りの宙が、澄み切った空気の透明な宙の青色が、先輩の眼の色に似ているって。それ以来、妙に宙が気になった。で、気にしてたら、いつの間にか、好きになった。なっていった。先輩に対する想いに比例するように。
「……好きっスよ」
「ん?」
「青」
 呟いて帽子を退かすと、手を伸ばし、今度は自分から先輩にキスをした。





田舎の方が青色が濃いんだって。
不二クンの眼、基本的に『蒼』と書いているのですが、今回は『青』にしてみました。ちょっと違和感。
短いのは、途中でテーマが変わったからで…。あは、あはは。
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