01 2月

「寒いっ」
「雪が降っているんだ。暑かったら可笑しいだろう」
 腕に纏わり付いてくる僕に鬱陶しそうに、けれど降り解かずに彼は言った。その吐息の白さが、今、どれだけ寒いかを知らせる。
「でもさ。暦の上では春なんだよ」
「あくまで、暦の上では、だろう?」
「……そう、だけど」
 少しだけしゅんとして頷くと、彼は深い溜息を吐いた。絡んでいた僕の腕を解く。
「………手塚?」
「寒いなら。ほら」
 少し顔を赤らめながら。彼は、改めて、と言った感じで僕に手を差し出した。訳が理解らず出された手を見つめていると、その手が伸びてきて僕の手を掴んだ。彼のコートのポケットの中で、探るように指が絡み合う。
「手塚。手、冷たいね」
 僕の手を、温めるつもりだったのだろうけど。元々体温の低い彼の手のほうが、冷たかった。温めるように、彼の指に自分のそれをちゃんと絡める。
「……だったら、手袋でも買え」
 更に顔を赤くしてポケットから手を出そうとするから。僕は無理矢理ポケットの奥に手を押し込めると、彼に寄り掛かり言った。
「でもこの方が、寒さも好きになれそうな気がするよ」

全編これくらいの長さの話を書くつもりだったのに…。










02 不二周助

「やっぱり負けちゃった、か。相変わらず、君は強いや」
 ブランクはあっても、手塚国光は手塚国光だったね。大して残念そうでもなく、寧ろ嬉しそうな口調で不二は言った。オレの隣に、腰を下ろす。
 校内ランキング戦で、久しぶりに不二と当たった。当たった、という表現は正しくないのかもしれない。そうなるように組んだのは、部長であるオレなのだし。
「惨敗だったけど、悔いはないよ。万全の君と、全力で戦うことができたんだから。ねぇ、手塚は?」
「……オレも、悔いはない。初めて、お前の本気を見れたしな」
「本気って言うより、必死って感じだったけどね」
 はは、と少し照れたように微笑うと、不二は宙を仰いだ。ちょっと見っとも無い姿だったかもね、と呟く。
「見っとも無い?何故だ?」
「ほら。君が好きなのってさ、余裕綽々って感じの僕でしょう?それなのに。さっきの試合じゃ、そんな余裕なかったし。もう、ボロボロだよ。本気の手塚には、やっぱり敵わないか」
 自分の様を思い出して可笑しかったのか、不二はベンチに深く寄りかかったままでクスクスと微笑った。自嘲気味にも思えるその微笑いに、溜息を吐く。
「……手塚国光は手塚国光」
「ん?」
「お前はさっきそう言った。それと同じだ。どんな姿でも、不二周助は、オレの好きな不二周助だ。必死なお前も、悪くない」
 言いながら何だか恥ずかしくなってきて。見つめる不二の視線を遮るように眼鏡を直した。
「そっか。惚れ直しちゃったか。それは良かった」
「惚れっ…誰もそんなことは言ってないだろう」
 クスクスと今度は嬉しそうに笑い出すから。オレは咳払いをすると、息を吸い込んだ。
「それに。オレに対してはお前はいつも必死だしな。見っとも無い姿は、今更だ」
 不二を見つめ、不二がいつもするような笑みを真似てみせる。そんなオレに、不二は一瞬固まったが。
「……それは、お互い様でしょう」
 そう言ってオレ以上の笑みを見せると、タオルで隠しながら触れるだけのキスをした。

※アニメ【手塚国光vs不二周助】のその後を先取り(笑)。
手塚には是非余裕で不二に勝って欲しかった。追いかけるのは不二の役目。










03 天才

「不二ってさぁ。天才って言われてるけど、それって絶対嫌がらせの天才ってことだよな」
 持っていたペットボトルの中身を全部飲み干すと、俺は言った。それでもまだ味が残ってたから、不二のボトルにも手を伸ばしたけど。
「いいよ。あげる」
「……とか言って、またなんか変なもん入ってたりとか…」
「英二。この眼が、嘘をついている眼に見える?」
 ふふ、と無気味に微笑うと、不二は三日月の眼を俺に向けた。メチャメチャ胡散臭いじゃん。
 でも、よくよく考えてみると、さっきまで不二、普通にこれ飲んでたんだよな。色も普通だし。いやいやいや。それでさっき俺は引っかかったんだって。
「やっぱ、いい」
「そう?いらないなら、別に良いけど」
 ふふ、とまた微笑うと、不二は美味しそうにそれを飲んだ。変化は、ない。やっぱ貰っとけば良かったかなってちょっと思ったけど。不二の味覚は変だから。安全なように見えても、もしかしたらヤバイ味ってことも無きにしも非ず…。
 つぅか。未だに、口の中からコーラとコーヒーの混ざったメチャメチャ苦い味が消えないんだけど。
「不二」
「ん?」
「不味い」
「何も飲んでないじゃない」
「まだ味が残ってんの。ったく。これだったら臭いだけで気絶する乾汁のほうがまだマシだって」
「じゃあ、お口直しに乾汁、飲む?僕、持ってるけど」
「………う」
 鞄を漁り出した不二に、俺は思いっきり首を横に振った。ソレを見た不二が、いらないの?美味しいのに。なんてトンチンカンな台詞を吐いてみせる。
「あーあ。手塚、可哀相」
 きっと、不二に毎日こんな嫌がらせ受けてるんだろうな。とかなんとか、色々想像して。俺は溜息を吐いた。けど、考えてるうちに、手塚が俺みたいなリアクションをとっている画が面白くなってきて、ついつい吹き出してしまった。
「そうなんだよね。手塚が英二みたいなリアクションとったら面白いんだけどさ。こういった悪戯じゃ、何のリアクションもしないんだもん。つまんなくて」
 だから英二で遊んじゃうんだよねぇ。独り言ちるようにいうと、不二はまた、ふふ、と無気味に微笑った。
 けど、俺はそんな不二の笑いよりも他の事が気になって仕方がなかった。でも、訊くのも怖いし。
「ああ。手塚はね、どういうイタズラでどういうリアクションをとるかって言うとね。まぁこれは、昨日の夜のことなんだけど…」
 じ、っと不二を見つめる俺の視線で気付いたのか、不二は机の上で手を組みそこに顎を乗せると、ニヤけながら語り出した。
 けど。
「わーっ。わーっ。わーっ。不二っ、ストップ」
 誰?って思えるようなでかい声がしたかと思うと、いつの間に教室に入って来たのか、顔を真っ赤にした手塚が後ろから不二の口を抑えた。
「……今の、て、づかの声?」
「あー…。菊丸。大石が待ってるぞ。さっさと帰れ」
 吃驚するくらい顔を真っ赤にすると、手塚は不二の口を抑えたまま、顎で教室の入り口をしゃくった。そっちに眼をやると、苦笑いを浮かべている大石。
「げほっ。ケホッ。手塚っ。幾ら僕でも、口と鼻いっぺんに塞がれたら、死ぬ…」
「………すまん」
 大石をじっと見てたら、目の前から苦しそうな咳と声が聴こえてきて。視線を戻すと、不二は俺を見て、ね、と少し苦しそうな顔で微笑った。
 ああ。なるほど。と、そのときは思ったけど。
「それでもやっぱ、俺に嫌がらせする理由になんないじゃん」
「え?英二、何か言ったか?」
「んーん。何でもない」
 大石と帰りながら、俺は改めて不二は嫌がらせの天才だと思った。

アイスコーヒーとコーラを混ぜるとものごっつ不味いという話。










04 笑顔

「ふ」
 何を考えてやがるのか。隣に座る俺の髪を梳くようにして撫でながら、不二は微笑った。振り向く前に顎を掴まれ、キスをされる。
「ふふ」
 唇を離した不二は、今度は俺の顔を見て微笑いやがった。
 意味もなく微笑われるのは好きじゃねぇが、俺は不敵に微笑うこの不二の笑みが好きだから、眼を離さずにしっかりと見つめ返した。
 普通に楽しくて微笑うこともあるが。不二は何かと口の端を歪めて微笑うことが多いように思う。いや、案外、好きで俺がその笑みしか記憶に留めていないだけかもしれねぇが。
 楽しそうに微笑う不二の笑顔が好きだという奴は山ほどいる。俺も、初めはそっちの笑顔の方が好きだった。そこらへんの女よりも可愛いしな。
 だが、今は違う。それは、俺が不二に求めるものが可愛さではなくなったからだろう。
「どうしたの?跡部」
「ああ?」
「もしかして、見惚れてた?」
 クスクスと微笑いながら言う不二に、俺は、バカ言ってんじゃねぇよ、と呟くと眼をそらした。
 だが。不二の言うことは事実だった。
 不敵に微笑う不二は、この世の誰よりも男らしく、格好良いと思う。いや、一番格好良いのはこの俺だが。その次に、格好良いと思う。
 不二とこう言った関係になるまでは、不二に男らしさや格好良さを求めてはいなかったのだが。今、俺は、不二にそれを求めている。
 だから、不二の不敵な笑みは好きだ。
 ただ1つ、困った点はあるのだが。
「ねぇ、跡部」
 耳元に唇を寄せ囁くと、不二は肩を掴みそのままソファに俺を押し倒した。
 クスクスと、俺の好きな顔で微笑う。
「もう夜も遅いしさ。いいでしょう?」
 またか、と溜息を吐く。不二がこう言った笑みを浮かべたときは、その顔が表す通り良からぬことを考えているときだ。これが、ただ1つの困った点。
 だが。
「………仕方ねぇな。そのかわし、痛くすんなよ」
「分かってるって」
 事の最中の不二はもっと男らしく格好良い顔をするから、俺はどうしてもそれ見たさに頷いちまうんだ。

不二跡はエロく(雰囲気だけ)。










05 テニス

「不二っ、これはどういうことだ!」
「…………は?」
 談笑してた僕と英二の間に割って入ると、手塚は声を荒げていった。手には校内新聞。
 ああ、それか。
 今朝から僕に話し掛けてくる奴はそればっかりだ。やっと皆追い返して、英二と仲良く話をしてたのに。まぁ、いいけど。
「て、手塚?」
 肩で息をしている手塚に、英二が声をかける。と、手塚はそこでやっと我に還ったのか、咳払いをし、眼鏡を直した。
「いいから。ちょっとこい」
 僕の手を強引に掴み、教室の外へと連れ出す。
「……ここに書いてあることは本当なのか?」
 屋上へ続く階段まで無言で僕を連れて来た所で、手塚は再び荒い声で言った。
「うん。ホント」
 手塚とは反対の、軽い声で答える。それに苛立ったのか、手塚は僕の肩を掴むと思い切り壁に押し当てた。
「どういうことだっ。お前は…」
 今にも噛み付きそうな手塚に。反対に僕が噛み付いてやった。深く、その唇を貪る。
 今朝から僕の周りを賑わせている校内新聞。そこに掲載されているのは、僕の記事。そしてその見出しはこうだ。
 『天才不二周助。テニスは好きな人との唯一の繋がり!?』
 何て、センスのない見出しなのだろう。読んだときは思わず笑ってしまったけど。今は笑えない。まさか、こんなに反響があるなんて。
「イニシャルがT.K.の女子テニス部員って、一人いたんだね。でも、『ち』ってさ、普通Cじゃない?無理あるよね」
 唇を離すと、僕は手塚に微笑って言った。僕にインタビューした新聞部の女子が僕の好きな人候補としてあげたのが、女子テニス部のコと、もう一人。
「それと、小坂田さんってさ、『コ』じゃなくて『オ』だよね」
 僕が、好きな人のイニシャルがT.K.だと言ったばかりに、彼女達にまで被害が及んでしまった。いや、実際、被害にはなっていないか。女子テニス部のコは、僕が頼み込むなら付き合ってあげてもいいなんて勘違いも甚だしいコメントをしてるし、小坂田さんは、私はリョーマさま一筋ですからなんて告白してるし。
「……だったら、テニスに関連してるT.K.って誰だというんだ?」
 濡れた口元を拭おうともせず、相変わらず僕の肩を壁に強く押し付けたまま、手塚は少しだけ落ち着いた声で言った。
「誰って。そんなの決まってるじゃない」
 クスリと微笑い、手塚の手を肩から外す。手塚の肩を掴み、体を反転させて壁に押し付ける。手塚の口元を伝うモノを舌で拭うと、そのまま唇を重ねた。
「テヅカクニミツのことだよ」
「なっ……。嘘を、言うな。オレのイニシャルはK.T.だ」
「ほら、あれだよ。TVとかでさ、有名人のイニシャルトークなんかやってるときさ、苗字・名前の順で表すじゃない。それと一緒」
 手塚の手の中でクシャクシャにされていた校内新聞を奪い取る。
「じゃあ…」
「僕にインタビューしたコの勘違い」
 目の前に掲げ、新聞を破り捨てると、僕は微笑った。彼の顔が、真っ赤に染まる。
「でもまさか、手塚まで勘違いするとは思わなかったな。ちょっと、ショックかも」
 耳まで赤くなった彼の顔を覗きこみ、わざとらしく溜息を吐いてみせる。と、彼は小さく咳払いをし、僕を見つめた。
「テニス、が。唯一の繋がりだと言われたら、オレのことではないと思って当たり前だろう?」
「―――え?」

不二にとってのテニス、手塚にとってのテニスという話は短編やら分割やら他のお題やらで書きまくっているので。
案外この話、気に入ってます。










06 つばめ返し

「これが本当の燕返しだ」
 音もなくそれを鞘に収めると、彼は落ち着き放った口調で言った。
「あ。そう」
 けれど。僕は彼の動きよりも、その姿に目が言ってたから。何とも気のない返事をしてしまった。彼の目が、つり上がる。
「あ、そう。ではないだろう。不二が見せてくれと言ったから用意してやったんだぞ」
「うん。それは分かってるんだけどね」
 どうにもこうにも。その姿が、色っぽくて仕方がない。シャツを着ているときには見えない胸元とか何だとか。色々。
「不二。聞いているのっ」
「真田」
 怒鳴り声を上げる彼を制すと、僕は手招いた。刀を手にしたまま、彼が僕の前にしゃがむ。その襟首を掴むと、僕は強引にキスをした。刀を取り上げ、遠くへ放り投げる。
「……っ不二」
 僕を呼ぶその声はキツイのに、顔は真っ赤だし、つり上がった目もいつものそれに戻ってる。分かりやすいなぁ。微笑いながら、格好良かったよ、と囁くと、僕は彼を押し倒した。露になっている肌に、唇を落とす。
「ちょっ、待て不二。何を…」
「いや。さっき燕返しを見せてくれたお礼にさ。僕も、もうひとつの燕返しを実践してあげようと思って」
 口だけの抵抗をする彼に、ニヤ、と最低な笑みを投げかけると、僕はまた、彼にキスをした。

真剣が扱えるという理由だけで…。










07 ひぐま落とし

「越前くんに破られちゃった。君にしか破られないと思ってたのになぁ」
 濡れた髪もそのままにベンチに座ると、不二は呟いた。残念がっている口調。けれど、その表情は嬉しそうでもあった。
「君の見込んだ通り。彼は立派な青学の柱になりそうだ」
 ふふ、と微笑い、オレを見る。その眼が嫌で。オレは不二のロッカーからタオルを出すと、その顔に投げつけた。
「分かるよ、それくらい。君が個人的に試合するなんて、そんな理由しかないでしょう。二年前の大和部長もそうだったし」
 顔に当たり膝に落ちたタオルと頭にかけると、不二は言った。今度は、嬉しそうな口調なのに、哀しそうな表情をしていた。
 溜息を吐き、その隣に座る。
「だが、それだけだ。特別な感情はない」
「うん。知ってる。分かってるよ、それくらい。でも、言ってくれなかったのは、ちょっと、淋しかったかなぁ」
 ふふ、と微笑いながら言う。オレはまた溜息を吐くと、不二の髪をガシガシと拭いた。タオルをとり、ボサボサになった髪を手櫛で梳いてやる。
「痛いよ、手塚」
「オレに破られた時点で」
「?」
「その技は使えないと思え」
 不思議そうに見上げる不二に、微笑ってやる。と、今度は不二が溜息を吐いた。
「それじゃ、僕はどの技も使えなくなっちゃうよ。なんてたって、君は最強なんだから」
「……なら、そこから一緒に考えればいいだろう?」
「一緒に?」
「一緒に、だ」

ダンナ:不二、ヨメ:手塚、コ:越前で。
(つぅか、妻:不二、夫:手塚のがしっくりくるね。あくまで不二塚だけど)










08 白鯨

「何そんなに不機嫌になってるの?」
「………別に」
「君だけしか知らないとっておきを見せたから?」
「……………白鯨を出さなくても、勝てる相手だっただろう?」
「そうだけど。未来の柱くんに見せてあげたくて、ね。それに、裕太の前で格好つけたかったってのもあるし」
「…………」
「でも、手塚は僕のこと、とやかく言えないからね。先にとっておきを越前くんに見せたのは手塚なんだからね」
「オレはいつでも本気だ」
「嘘。乾には途中まで本気じゃなかったくせに」
「だが跡部には」
「彼は強いから、仕方ないよ。でも……まぁ、いいけど。だから、手塚がそんなに不機嫌になるのは可笑しいの」
「……仕方、ないだろう。不機嫌になるつもりはなくても、お前と越前とのこととなると、どうしてもそうなってしまうんだ」
「妬いてるの?」
「……かもな」
「変なの。妬いちゃうのは僕のほうなのに」
「何故だ?」
「自覚無いの?どう見たって、君は越前くんを特別視してるじゃない」
「何度も言っているが、オレは別に」
「特別な感情はない、でしょう。知ってるよ。でも、そうだな、君の言葉を借りるなら、君と越前くんとのことってなると、どうしてもそう見えちゃうの。まぁ、越前くんに限らず、君と僕以外のことなら全部そう見えちゃうんだけどさ。でも多分、君と越前くんに関しては、僕以外の人もそう見てると思うよ」
「………それは、すまなかった」
「僕に謝られてもなぁ」
「ならば、誰に謝れば?」
「誰に謝らなくてもいいよ。ただ、その代わり、今君が機嫌を直してくれれば」
「…………」
「それにね、言っとくけど、まだ僕の本気は手塚にしか見せてないんだからね」
「……そう、か」
「…………ふふっ」
「何だ?」
「手塚。何だか嬉しそうだね」
「っ。うるさい」

ごめんね、リョマ。不二が裕太を大事にしているのは、手塚も承知。(短編@『Deep Freeze』)










09 経験

「何事も、経験だよ。僕のデータ、採りたいんでしょう?」
 そう言われて。何か違うと思いながらも、流されるように俺は不二に抱き込まれた。
 確かに、意外なデータはとれたし、それ以後も体を重ねるうちに不二の思考が分かってきた。
 が。
「嫌」
 偶には下になれと言って押したおした俺を、不二はたった二文字で拒否した。
「何事も経験だと言ったのは不二のほうじゃないのか」
「言ったけど。僕、乾のデータなんて欲しくないし。それに…」
 言葉を切り、ニッ、と微笑うと、不二は俺の首に腕を回して引き寄せた。唇を重ねたまま、体を入れ替えられる。
「きっと君は、それじゃ満足出来ないよ」
 クスクスと微笑いながら、シャツのボタンを外していく。やってみなければ分からないだろ、と反論したかったが。
「っ」
 触れられただけで早くも上がり始めた息に、不二の言っていることは当たっているのだと言う事を悟った。
 それと、この天才は、経験などなくても俺のデータくらい簡単に収集できると言うことも…。

久々不二乾。










10 苦しみ

 不気味な微笑い声と蒼い眼に浮かされ、ボクはいつも目を覚ます。荒い呼吸と速い鼓動。落ち着かせる為に大きく深呼吸をする。
「………ふふ」
 目を瞑り、夢の内容を思い出すと、自然と笑いが込み上げて来た。それと同時に、少しだけ胸が苦しくなる。
 ボクを倒した男、不二周助。
 毎夜のように彼の夢を見るんです。と、彼の弟、不二裕太に自慢したことがある。
 裕太クンは兄弟なのにも関わらず、彼を好きだという。
 まぁ、足元には及ばないけれど、一応ボクのライバルと言うことになっているので、ボクのほうが圧倒的に優勢なのだと言う証拠に、自慢をしてみた。
 その時、裕太クンはそうとう悔しかったらしく、顔を歪めながら、兄貴に呪いでもかけられたんじゃないんですか、と的外れな事を言っていた。兄貴、なんか観月さんのこと嫌ってるみたいですから、とも。
 的外れ、と言ったけれど、総てが外れてるわけじゃない。さすが彼の弟なだけはあると、ボクはその時、少々感心したものだ。
 確かにボクは、彼に『かけられた』けれど。それは呪いなんかではなく、恋の魔法。
 毎夜彼の夢を見るのも、彼を思い出すたびに体が震えるのも、胸が苦しくなるのも。総て、彼がかけた魔法のせい。そしてその魔法は、時を経る毎に強くボクに襲い掛かってくる。
「ふふふっ」
 夢の中に出てきた彼を思い出し、ボクはまた微笑った。体が震え、胸は苦しくなったけれど、いつか彼が自分がかけた魔法の効果を確かめる為にボクに会いに来る事を考えると、それすらも甘い愛撫のように感じた。

「恋の魔法」の後ろには☆でも入れといてください(笑)。
裕太と観月で不二の取り合いをして欲しい。
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