「お帰り、不二」
「ただいま」
両手を広げて迎えた佐伯に、僕は微笑うと、その横をすり抜けて歩き出した。あれ、と間の抜けた声を上げ、慌てて僕の隣に並ぶ。
「不二。再会の抱擁は?」
「なし。っていうか、改札であれはないよ。佐伯、ちょっとバカっぽかったよ」
「………いいんだよ。どうせここは田舎で、人もいないんだから」
クスクスと微笑う僕に、佐伯は少しだけ顔を赤くすると言って微笑った。時々触れていた佐伯の手をとり、指を絡める。
僕から手を繋いだことで調子に乗ったのか、そうだ、といつもより弾んだ声で言った。
「折角帰ってきたんだしさ…」
その先の言葉が出てくる前に、その手を思い切り引き、唇を塞ぐ。
「っ。不二?」
驚いて僕を見つめた佐伯の顔が可笑しくて、思わず微笑った。なに微笑ってんだよ、と少し不満げな口調で言いながらも、佐伯も微笑う。
「折角、とか言わないでよ。別に僕が佐伯の所に帰ってくるのは特別な事じゃないんだから」
記念日みたいな扱いはして欲しくないな。いつも通りでいいよ。まだ僕を見ている佐伯から目を逸らし前を見つめて言うと、繋いだ手を大袈裟に振って歩き出した。僕からほんの少し遅れて、佐伯も歩き出す。
「けど。俺にとっては記念日みたいなモンだよ。不二あんましこっち帰って来ないしさ」
「……そっか。でも、そうだけど。やっぱり、佐伯と会うのが特別になるのは嫌だなぁ」
佐伯とはこれからも当たり前みたいに一緒にいたいし。宙を見上げながら、呟くようにして僕は言った。でも、佐伯の事だから、きっと何らかの反論が来るだろうと思って。そのまま待ってたけど。いつまでも沈黙が続いて。
「佐伯?」
不思議に思って視線を移すと、佐伯は顔を真っ赤にして、ただ真っ直ぐ前を見つめていた。
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