21 手

 唐突だけど。僕はタカさんの手が好きだ。大きくて、ゴツゴツしてて。職人さんって感じがする。それに温かいし。
 けど、それをタカさんに言ったら、おれのは何処にでもある手だよ、と返されてしまった。
「そんな事ないよ。でも、もしそうだったとしても、その中でも僕は、やっぱりタカさんの手を一番に選ぶよ」
 両手で広げていた手に自分の手を乗せてみる。同い年とは思えないほど、タカさんの手は大きい。身長差もあるのだろうけど。僕は身長の割には手は大きい方なのに。
「そんなに持ち上げても、何も出ないけどな」
 少し照れたように言うと、タカさんは指を折った。僕の手を引くようにして立ち上がる。
「タカさん?」
「そろそろ帰ろうか。幾らおれの手が温かいって言っても、流石にこの寒波には勝てそうにないしな」
「……うん。そうだね」
 まだ微かに赤い顔で言うタカさんに頷くと、僕も指を折ってその大きな手をしっかりと握り締めた。

おっきなタカさんを攻める不二が好き。










22 唇

 眠っている時だけは、綺麗な顔をしていると思う。いや、だけ、という表現は正しくはないが。起きていると、何かとうるさいからな。
 起こさないよう、腕から抜け出す。見下ろすと、本当に綺麗な顔をしている、と改めて思った。額にかかっている髪を退ける。
 ん、と呟いて突然身じろぐから。オレは急いで手を離した。綺麗な顔が、何故か歪む。まるで普段のオレのような顔に。
 何故そうなったのかが分からずただ見下ろしていると、その唇がゆっくりとオレの名前を象った。
 不覚にも、顔が赤くなる。
 けれど、向こうはまだ眠りの底で、オレがこんな顔をしている事を知らないから。オレは赤くなった顔を隠す事はせず、微笑った。
「不二」
 呟いて、唇を重ねる。
「…ぇづか」
 今度は音にしてオレの名を呼ぶと、その顔は少しだけ穏やかになった。
 ずっとオレの体の下にあった手が、探るように彷徨い、浮かせていた肩に触れてくる。
「手塚」
 はっきりとした口調で言うと、触れていただけのオレの肩を強く掴み、抱き寄せた。
 まさか眠っている時でさえこんな力があるとは思わなかったから。オレはそのまま不二の上に倒れてしまった。
 直ぐそこに、形の整った不二の顔。
「………おはよ」
 オレの重みに拠るものなのか、不二はゆっくりと瞼を開けると、オレに焦点を合わせ、微笑った。その唇が、またオレの名をなぞるから。
 声に出さずオレも不二の名前をなぞると、まるで引き寄せられるように唇を重ねた。

不二の寝顔を見るのが好き。










23 頬

「ねぇ、大和くん」
「……何です?」
「髭、ちゃんと剃ろうよ。見っとも無いよ」
「いいじゃないですか。別にあなたが見っとも無いと思われるわけじゃないんですから」
「……思われるような気もするけどな」
「大丈夫ですよ。ボクと君では、どう見たって恋人同士には見えませんから」
「人攫いだもんね」
「また、そんな意地の悪い事を言う…」
「そんな変な無精髭じゃ、誰だってそう思うよ。僕は僕で、攫いたくなるくらい可愛いしね」
「自分でいいますか、そういうこと」
「だって、大和くんもそう思ってるんでしょ?」
「……まぁ。でも、可愛いって言うだけではありませんけどね」
「……………へぇ」
「何ですか、その間は」
「ううん。あ、でも、そうか。そうだよね」
「ほらほら、不気味に微笑わない。その微笑い、気を付けないと、変質者に思われちゃいますよ」
「大和くんといる限りは平気だよ」
「…………」
「ね」
「………それは、そうかもしれませんけど」
「でさ。話し戻すけど。やっぱり、髭はちゃんと剃ってよ」
「不二くんはこの顔、お嫌いですか?」
「嫌い」
「……そんな、即答しなくてもいいじゃないですか。これでもボク、結構繊細なんですよ」
「あはは。ごめん。でも、見た目じゃないから」
「見た目じゃないなら、何が嫌いなんでしょうか?」
「あのね。だから、こういうこと」
「っ」
「した時にさ、髭が刺さるんだよね。って、大和くん?」
「不二くん」
「うん?」
「そういう事は普通、頬ではなくて唇にするものなんですよ」
「知ってるよ、それくらい」
「だったら、ちゃんとこっちにして下さい」
「…………
「お返事は?」
「はーい」

コフジ(攻)を連れた大和(受)はまるで変質者のよう。










24 一瞬

 一瞬、辺りの空気が止まった。  不二はというと、既にオレから離れ、何事も無かったかのように空いたのコートへと歩き出していた。
 唇に、残った感触を確かめるように、指先で触れてみる。
 オレが動き出したのを切欠に、止まっていた奴らも動き出した。オレか不二を気にしながら、それでも平静を装って。
 唇に触れていた手を握り締め、不二を見る。けれど、不二はオレを気にする様子も無く、菊丸といつものようにボールを打ち合っていた。もっとも、菊丸のほうはオレの不二への視線を気にしていたが。
 悪戯なのか、告白なのか、それとも、単なる気まぐれか。どれも当てはまりそうな気もしたし、どれも当てはまらなそうな気もしたが。
 とりあえず。オレが今すべき事は1つ。
「不二!お前はグラウンド20周だ」

一瞬の告白。










25 レコード

「一体こんなもの、どこで買って来るんだ?」
 うっかりクローゼットを開けっ放しにしてたから。彼はそれに興味を持ったらしく、早速僕に尋ねてきた。
 とりあえず座ってと、彼をベッドに座らせる。僕はというと、隣に座らずに、クローゼットの前にしゃがんだ。
「中古屋さんとかでね、売ってるんだ。そうだ、何か訊く?」
「…………」
「手塚?」
 返事がこなかったから。気になって振り返ると、彼は変な顔をして僕を見ていた。
「なに。どうしたの?」
「いや、お前とレコードをかけるというのが、いまいちピンと来なくてな」
「………って。もしかしてそれ、DJとか想像してない?」
「違うのか?」
「あのねぇ」
 まぁ、手塚らしいけど。言って微笑うと、彼は少し頬を赤くして拗ねたような顔をした。
 機嫌をとるために、レコードを一枚選び、プレイヤーにセットする。
「そういう聴き方もあるけどね。僕はCDとかと同じように、普通に聴いてるよ。これならピンと来るでしょう?」
 ヴォリュームを少し小さめにし、彼の隣に座る。ね、と微笑うと、彼は相変わらずの赤い顔で、けれど今度は照れたように、そうだな、と頷いた。

DJな不二も見てみたいけどなぁ。










26 鏡

「そんなに自分の顔見て楽しい?」
 鏡を見る俺の視界の片隅に入ってくると、詰まらなそうに不二が言った。
「楽しかねぇが。なんだ。不満そうだな」
「まぁね」
 クスリと微笑い、俺の手から鏡を取り上げる。パタンと閉じてそれをテーブルに置くと、今度はアップで俺の視界に入ってきた。
「何だよ。邪魔だ。退け」
「退かないよ。邪魔じゃないし」
 俺がその顔を押し退けようとするのよりも先に、不二は俺の両手をしっかりと掴んだ。ソファに押し倒し、唇を重ねてくる。
「なっ、にしやがんだよ」
「ねぇ。そんなもの見てるよりさ。僕を見てるほうが、楽しいと思わない?」
 クスリと微笑い、俺の手を束ね片手を空けると、不二は微笑いながらシャツのボタンを外してきた。冷たい手が、肌に触れる。
「何?」
 じ、と見つめる俺に気付いたのだろう。不二は訊いてきた。何じゃねぇよ、と呟く。
「てめぇが、自分を見てる方が楽しいって言ったから見てんだよ。悪ぃか?」
「………へぇ。じゃあ、キスしてるときも、その先も、ずっと僕を見てるんだ?」
「試してみるか?」
 意地の悪い笑みを浮かべる不二に、似たような笑みを浮かべて返す。
「いいよ」
 呟いてクスリと微笑うと、不二は深く唇を重ねてきた。

この後、跡部は本当にずーっと不二を見たまま…。










27 うるう年

「そー言えば不二、今年誕生日来ないんだよね」
「ん。まぁね」
「まだ3歳かぁ。どーりでちっさいわけだ」
「小さいって。言うほどじゃないでしょう。英二と4センチしか違わないんだし」
「ま、そーだけどさ。でも、不二って、結構小柄だって言われるよね」
「そうなんだよね。まぁ、多分まだ成長期きてないからね。そのうち伸びるだろうし、いいけど」
「あー。わかった」
「何?」
「手塚とばっか一緒にいるから、そう見えちゃうんだよ。手塚、それなりにでかいし」
「そうかなぁ」
「そうだよ。絶対そうだって」
「じゃあ、何。手塚と一緒にいるなって?」
「うわっ。そんな怖い顔で睨むなよ。んなこと言って無いだろ。別に不二はちっさく見えてもいいわけだし」
「ああ、そっか」
「あ。そうだ」
「まだ何かあるの?」
「不二、さ。今年はどっちを誕生日にすんの?」
「あー。そうだね。多分、28日じゃないのかな。バースデイ・イヴだし」
「イヴ?誕生日来ないのに?」
「29の前は28だからなんだってさ」
「……それ、誰が言ったの?」
「手塚だけど」
「…………」
「…………」
「……ぷっ」
「英二、微笑わないのっ」
「何だよ。そういう不二だって微笑ってんじゃん」
「まぁまぁ」
「……っと。んじゃ、俺たちは1日に祝ってやっから。ま、イヴは手塚と楽しんでくれや」
「うん。あ」
「?」
「1日は、手塚、グロッキーかもしれないから。2日じゃ、駄目?」
「………いい、けど。……不二」
「ん?」
「……いや、何でもない。……手塚、可哀相」
「ふふふ」

160後半は大きい方だと思うけどナ。
手塚の発言は短編@『誰よりも早い愛の歌』で。










28 カウントダウン

「なんか、変な感じだな」
「そう?僕は嬉しいだけだけどな。4年前は、裕太、先寝ちゃうから」
「………悪かったな」
 布団の中で、ぼそぼそと話す。別に外に出ても構わねぇんだけど、兄貴が昔みたいにしたいって言うから、大人しく従った。
 何しろ、明日は8年ぶりの兄貴の誕生日だ。
 いや、本当は4年ぶりだし、誕生日を祝うだけなら毎年やってるんだけど、こうしてカウントダウンをするのは8年ぶり。4年前はオレは兄貴に苛立ちを感じてた頃だったし。
 兄貴の誕生日は、いつもこうして布団の中でカウントダウンをしていた。いつもっつっても、4歳と8歳の2回だけど。
 勿論、オレたちは子供だから、そんな遅くまで起きてる事は許されなくて。だから、こうして布団の中に目覚し時計と懐中電灯を持ってきて、カウントダウンをした。
 でも、日付が変わって、おめでとうって言った後、オレはそのまま兄貴の布団で寝ちまって。朝、起こしに来た母さんに怒られたのを覚えてる。多分、過去2回とも、そうだった。
 まぁ今は、オレは中学生だし、兄貴は高校生だし。夜更かししても起こられる事はない。というか、そもそも母さんはここにいねぇし。
「でも何で、わざわざ寮でカウントダウンするんだよ。別に家でもいいじゃねぇか。オレ、帰るっつってんだしよ」
 授業が終わって、家に帰る為の荷物を取りに寮に戻ったら、どういうわけか兄貴がいた。相変わらずオレが一人部屋だからいいものの、誰かがいたらどうする気だったんだか。まぁ多分、そん時は、同室の奴を追い出すってだけだろうけど。
「なんか、ちょっとドキドキするかなぁって思ってさ。家だったら安心して色んなことしちゃうだろうし」
「何だそれ」
「まぁ、ここでも色んなことしちゃう事には変わりないんだけどさ」
 ふふ、と無気味に微笑うと、兄貴は懐中電灯と時計を上に押しやった。オレの方へ体を寄せてくる。
「キツイっての。向こう行けよ」
「ほら、もう少しで日付変わるからさ。キスしようよ」
「………は?」
「良くやってるバカがいるじゃない。年が変わる瞬間にジャンプして、その瞬間自分は地球に居なかったって。それと同じようなもんだよ」
「何だそっ…」
 反論を、言い終わる前に兄貴に口を塞がれた。思わず目を瞑っていると、兄貴に肩を叩かれた。眼を開けると、兄貴は顔の傍まで持ち上げた時計を見ていた。
「んっ」
 その針が指していた時刻に、思わず声が漏れる。
 時計は、まだ11時56分を回ったところだった。

残り4分。ガンバ!










29 誕生日

「へぇ。不二先輩の誕生日って、暫く来ないんだ」
「暫くって言うか、まぁ、再来年には来るけどね。なんで?」
「いや、そう言う珍しい所が先輩らしいなって思っただけっスよ」
「そう?まぁ、いいけど」
「で、誕生日はいつもどうしてるんスか?」
「何でそんなこと訊くの?」
「べ、つに。ただの興味っスよ、興味」
「ふぅん。興味、ねぇ」
「な、なんスか?」
「越前くんが他人に興味を持つ事なんてあるんだなって思ってね。これは、少しくらいは好意を持ってくれてるって思ってもいいのかな?」
「……オレだって、他人に興味くらいは持ちますよ。アンタ、強いし」
「強いと、興味持つんだ」
「悪いっスか?」
「悪くは無いよ。ちょっと淋しかっただけ」
「……淋しい?」
「テニス抜きで、僕に好意を持ってくれたのかなって思ったからさ。そっか。違うのか」
「…………」
「ん?でも、それと誕生日って関係ないよね?」
「……そ、んなことより、俺の質問に答えてくださいよ」
「えーっと。何だっけ?」
「だから、誕生日の来ない年って、いつ祝うんスか?それとも、祝わない?」
「家族は28日にケーキを用意してくれるよ。それで、1日は英二企画で、誕生会、かな」
「……へ、へぇ」
「あ。多分今年…っていうか、来年か。来年の誕生日は、君も呼ばれると思うよ」
「マジっスか?!」
「……それは、嫌なの?嬉しいの?」
「………どっちに見えます?」
「どっちの顔した君も見たこと無いから何ともいえないなぁ」
「……そうっすか」
「でも今は、落ち込んでる」
「…………」
「当たり、かな。ま、いいや。分かると思うけど、英二がね、越前くんのこと結構気に入ってるからさ。それに、参加者は殆んどテニス部レギュラーだし」
「……じゃあ、部長も来るんスか?」
「気になる?」
「……別に」
「気になるって顔だよ?そういえば、手塚は僕より強いからね。越前くん、興味あるでしょう?」
「………まぁ、ある意味」
「?……まぁ、いいや。来るよ、勿論。来なきゃ、勘繰られるし」
「?」
「色々あるんだよ、手塚も僕も」
「……そう、っスか」
「まぁ、だから、もしかしたら2日になるかもしれないけどね。英二企画。ま、楽しみにしてなよ。って言っても、半年以上も先の話だけどさ。じゃ、これくらいでいいかな?そろそろ帰らなきゃ」
「っス」
「うん。じゃあ、また明日ね」
「うぃーっス。………はぁ」

『うるう年』と関連。不二塚前提でごめんね。










30 感謝

「………どっかの国だとね」
「?」
「誕生日って、自分を産んでくれたことを両親に感謝する日なんだって」
 ぼんやりと天井を見上げているオレを、横から強く抱きしめると、不二は言った。ありがとう。オレの耳元で囁く。
「オレはお前の両親ではないぞ」
「そうだけど。でも、何か君に言いたくてさ。僕と、出逢ってくれてありがとう。好きになってくれて、ありがとう。一緒に居てくれて、ありがとう」
 ありがとう、と呟くたびに、腕に力がこめられる。暫くそのままにしていたが。
「不二」
 名前を呼び、視線を移すと、オレは不二に口付けた。体の向きを変え、正面から抱き締める。
「ありがとう」
 不二の耳元で、囁く。くすぐったいのか、不二は少し身を捩ると、僕は何も感謝されるような事はしてないよ、と苦笑した。
「オレも、何故かそう言いたくなっただけだ」
 少しだけ体を離し、不二を見つめる。もう一度、ありがとう、と囁くと、オレは微笑った。うん、と頷いて、不二も微笑う。
「それと、これからもよろしくね」
 涙を浮かべたような眼で言う不二に、ああ、と頷くと、オレたちはどちらからともなく、唇を重ねた。

やっぱり最後は不二塚じゃないとネ!30題、お疲れっ。
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