髪型(はるみち)
「あ。はるかさんたちだ!はっるかさーん。みちるさんっ。おはようございまーすっ!」
「お団子頭じゃないか。おはよ」
「おはよう、うさぎ。今日は遅刻ギリギリじゃないようね、偉いじゃない」
「はいっ。へへ。褒められちった。……っと。あれ?」
「なんだい?」
「なんか、はるかさん。今日、ちょっと、いつもと雰囲気が違いません?」
「そうかな?」
「なんていうか。うーん……。あーっ!分かった!髪型だ!はるかさん、今日いつもと髪型が違う!」
「か、髪なんか、切ってないけどな」
「そうじゃなくって。はるかさんて、いっつもナチュラルヘアーって感じなのにぃ。なんか今日はちゃんとセットしましたって感じになってるっていうかぁ……」
「……だから、嫌だったんだよ」
「へ?」
「僕はね、結構走り回ったりするから。それに風も感じたいし。だからいつも手でとかすくらいなんだよ。……なんだけど、朝みちると一緒だと、寝癖がどうとかうるさくて。セットさせられるんだよ、髪を」
「あら。うるさいだなんて、失礼しちゃうわ」
「え?え?朝、一緒って?どゆこと?」
「そういうことよ、うさぎ」
「えーっと、そりはぁ……」
「でね、朝は余韻に浸りたいものなのよ。うさぎも衛さんという人がいるなら分かるでしょう?」
「い、いや。私、はっ、まだ。その、まもちゃんとは、何も……」
「あら、そうだったの?それはごめんなさい。でも、そういうことだから、はるかの髪型が決まってるときは出来るだけ放ってい置いて欲しいの。……うさぎなら、分かってくれるわよね?」
「……え、ええ。そりゃあ、もう。はいっ。じゃあ今すぐ退散します。おーっと、うさぎちゃんこんなところで道草くってたら遅刻しちゃーうっ。そいではっ」
「何も、そんなに慌てることはないのに」
「あのね、みちる。そんな顔して言ったら、誰だって怯えるよ」
「あら。どんな顔かしら?」
「そうだな。……今僕に向けている笑顔とは正反対の笑顔、かな」
「正反対。……本当に、それって正反対なのかしら?」
「――え?」

(2009.8.26)


有効利用(はるみち)
「みちる、ヨットレース出よう!」
「なあに、行き成り」
「みちるの波を読む能力(チカラ)と僕の風を読む能力があれば最強じゃないか!」
「はるか」
「2人でさ、潮風を感じるんだ。なぁ、なかなか素敵だとは思わないか?」
「はーるーかーさんっ。もうっ、少し落ち着いて」
「ああ。すまない。いい考えだと思って、つい。なぁ、みちるはどう思う?」
「ヨットなんて乗ったことないわ」
「大丈夫だよ。僕が教えるから」
「それで、レースに出るの?」
「もちろん」
「普通に楽しむだけじゃ駄目なの?」
「どうせ優勝だよ」
「だ、か、ら、言ってるんじゃない」
「え?」
「ねぇ。それってずるじゃない?」
「ズルだなんて。そんなこと……」
「ほら」
「思ってないさ」
「嘘。思ってるから言葉が詰まったんでしょう?」
「……いいじゃないか、ズルだって。折角与えられた能力なんだぜ?少しくらい使命以外で活躍させたってバチは当たらないさ。いや、寧ろそうやって能力を研ぎ澄ませておくほうが大事なんじゃないかな?」
「もう。そんな都合のいい事ばかり言って」
「そういうみちるだって。世界の沈黙を描いて賞をもらったじゃないか。それはズルじゃないのか?」
「それは……」
「ほーら」
「違うわ。描いたのは私自身のチカラだもの。ネプチューンの能力ではないわ」
「で、も。少しはそう思ってるんだろ?だから言葉に詰まった。違う?」
「はるかっ」
「はは。ごめん。さっきのはちょっと意地悪だったかな」
「ちょっとじゃないわ、ずいぶんよ」
「悪かった。謝るよ。だからほら、機嫌直して?」
「別に機嫌なんて悪くしてなくてよ」
「そう?じゃあご機嫌取りしなくて済むわけだ」
「……はるかさん?」
「ほーら」
「……もう。それで?どうして今日はこんなに意地悪なのかしら?」
「みちるが僕の提案に乗ってくれないからさ。でも、そうだな。譲歩しよう。レースは出なくてもいいから、さ」
「それなら、いいけど」
「よかった。じゃあ……」
「えっ、何?」
「僕らのヨットをさ、どれにするか」
「今から?」
「思い立ったが吉日って言うだろ?」
「……もう」

(2009.8.29)


RAIN(はるみち)
「雨に濡れるのが好きな人はナルシストだって聞いたことがあるけど。何をしていたの?屋上で」
「頭を冷やしたかっただけさ」
「それなら冷たいシャワーを浴びたらいいわ。こんな」
「フローリングを汚したのは悪かったよ。後で僕が拭いておくから」
「私がやるわ。だから貴女は早く熱いシャワーをっ。ちょっと、離しっ。私まで濡れてしまうわ」
「だからさ。……一緒に温まろうぜ?」
「……はるか、もしかして貴女っ」
「なぁ、いいだろ?みちる」
「……もう。こんなことばかりして、風邪ひいても知らなくてよ」


B'coz I Love You(はるみち)
 貴女に愛されればそれで充分。でも満足(みた)されることなんてないの。

「よく、分からないな。結局、僕じゃ不充分ってことだろ?」
「違うわ」
 微笑った彼女は膝に乗ると僕の首に腕を回してきた。数秒見つめあっては口づけを交わす。
 二日会わなかっただけなのに懐かしいと思うのは、甘えているのが彼女だからだろう。
 僕を抱きしめて頬を寄せる。猫のような仕草。これは本来、僕の役目だ。
「みちる。どうしたんだよ、今日は。なんか変だぜ?」
「ただ、はるかを好きなだけよ」
 耳元で囁き、苦しくなるほどに僕を抱きしめる。
 二日ぶり。たった二日。違うのだろうか。
「みちる……」
「ねぇ。どれだけ一緒にいても、どれだけ思われても、リミットなんて私にはないの。だからはるか。もっと愛して?一度も休まず」
「……分かったよ、みちる」


FRIST BIRTHDAY(外部ファミリー)
「せつなママ、早く、早くっ!」
「そんなに急かさなくても今いきま……」
「せーつなっ」
「ハッピーバースデイ」
「……え?」
「今日はせつなママのお誕生日でしょ?ほたるね、みちるママと一緒にケーキ作ったんだよ」
「その他の食事は、久々に僕がね」
「ねぇねぇ、早く座って!はるかパパ、火つけて!」
「はいはい。……あれ?せつな?」
「いえ。何故ロウソクが1本だけなのかと思って。確か年齢の数だけロウソクを……」
「だから1本なのよ、せつな」
「え?」
「そんな見た目だし、前世の記憶もしっかりあるからせつな自身勘違いしても仕方ないけど。君はこの地球(ほし)に転生してまだ1年なんだぜ?」
「じゃあ、せつなママは私より年下なの?」
「まぁ、そう言えなくもないわね」
「…………」
「不満なら、見た目の年齢分、ロウソク追加するけど?」
「いえ。少し遅れてしまいましたが、嬉しくて」
「せつなママ、泣いてるの?」
「……そのうち嬉しさも薄れるさ。回を重ねて、毎年の恒例行事になれば」
「回を……?そう、ですね。是非そうなってもらいたいものです」
「じゃあせつな、ロウソク、吹き消してもらおうかな。バースデーソングの伴奏は豪華海王みちるのバイオリンだぜ」


おやすみ。(はるみち)
「みちる?どうしたんだよ。電話なんて」
「ごめんなさい。もう寝ていて?」
「今寝ようとしてたとこだよ。って、そうじゃなくて。何で電話なんか」
「寝る前に、はるかの声が聴きたくなって。……迷惑だった?」
「迷惑とかそういうことじゃなくて。壁一枚隔てた隣だぜ?君がこれないなら、僕が君の部屋に行くけど」
「駄目」
「何でだよ」
「貴女の声が聴きたかっただけだから」
「だからさ。機会を通した声より、生の声の方がいいだろ?待ってろ。今――」
「駄目、来ないで」
「みちる?」
「声だけで、いいの」
「どうして……」
「会ったらきっと。眠りたくなくなってしまうから」
「……みちる、それって」
「だから、駄目よ。……明日、早いし」
「…………」
「はるか?」
「分かった。今夜はこのまま、付き合うよ」


アクアリウム(はるみち)
 そんなに好きなら、自分で育ててみたら。
 水族館に通いつめる私に彼女は言った。君の部屋ならそれなりの水槽、準備できるだろ。
 確かに部屋の広さや資金面では問題ないし、生き物を飼育することも嫌いじゃない。だけど私はそれをしたいとは思わない。
 どうして。
 創造主になったような錯覚に陥りたくないの。バカらしい話だけど。
 創造主だなんて。違うよ。僕たちは僕たちだ。君は水の世界の創造主なんかじゃない。守人なんだ。ほら、それなら同じだろ。
 同じだったら、もっと嫌だわ。
 呟いた私に彼女は困惑の表情を浮かべると溜息を吐いた。
 ここなら平和ってわけだ。少しずるい気もするけど。
 表情を戻して言った彼女は、じゃあ、と続けると私の肩をそっと抱き寄せた。じゃあ。通うしかないな。
 ご不満かしら。
 これが不満そうな顔に見えるかい。
 穏やかな声。水槽に映る表情からは確かに不満の色は見えない。
 ま、君が一人で通うって言うのなら、僕は不満だけど。
 左右の反転した彼女は、私と目を合わせると変わらずの穏やかさで言った。え、と聞き返す私から顔を背け、代わりに本当の彼女が私の視線を受け止めた。そうして続けられた言葉に、私はただ黙って彼女の肩に頬を寄せることしか出来なかった。
「つまり、君ともっと居たいってことさ、みちる」


sky blue(はるみち)
 飛び降りたら果たして風になれるだろうか。
 屋上の、フェンスの向こう側に立ってはそんなことを思う。
「はるか」
 聞こえてくる不安げな声。そんなに心配しなくても、飛び降りやしない。
 君が海辺に立っていつまでも海を眺めているのと同じ気持ちだよ。本当に一体になれるならすぐにでも飛び込むけど。そんなこと出来ないって分かってるし、今はもう一体になりたいなんて思ってない。
 もし僕が今、何かと一つになれるとするなら。
「……みちる。帰ろうか。風邪をひくといけない」
「それは貴女の方でしょう、はるか」
 振り返る僕にほっとした表情を見せていうと、彼女は手を差し伸べてきた。
 しっかりとその手を掴んでフェンスの内側へと戻る。
 ここが、今の僕の世界だ。
「なぁ、みちる。これから僕と一つにならないか?」
「なあに、それ。お誘いのつもり?」
「まぁ、そう言ったところかな」


別れの言葉(はるみち)
「行ってきます」
 傍から見たら奇妙な光景だろうと思う。これから自分のマンションに帰るという奴がのセリフじゃない。
 けど僕にはこれが自然な別れの挨拶に思える。
 勿論、彼女の部屋は彼女の部屋であり、そこでどれだけ多くの時間を過ごしたところで僕の部屋にはならない。けれど僕が言っているのは彼女の部屋に対してじゃないから。
「行ってらっしゃい」
 それが分かっている彼女はそれに対応する言葉で僕を送り出す。それが当たり前であるかのように。
 かのように?それは違うか。当たり前なんだ。
 どこにいようと結局、僕の帰るとこはみちるしか有り得ないのだから。


クラスメイト(はるみち)
「ねぇ、はるか。聞いてるの?」
「……ああ。うん」
「もう。はるかが教えてっていうから」
 溜息を吐く彼女を、頬杖をつきながら眺める。
 開いているのは数学の参考書。特に苦手というわけではないが、授業の進みの早い彼女に予習を口実にレクチャーを受けている。
 クラスが一緒なら、こんな感じかな。いや、こうして会話は出来ないか。
 そんなことを考えながら、ペンを走らせる綺麗な指先を見つめる。それから伏し目がちな横顔へ。
「またそうやって」
 僕の視線に気づいた彼女は、けれど今度は少しだけ頬を赤くした。きっと、その意味に気づいたからだろう。
「君は、何をしてても画になるな。クラスメイトに同情するよ。これじゃあ授業に集中出来やしない」
「そんなこと思うのははるかだけよ」
 もう、と頬を膨らせて彼女はまた参考書に戻った。下ろした髪の、隙間から見える耳はまだ赤みを残している。
「案外、同じクラスじゃなくてよかったのかもしれないな」
 僕の言葉にペンを止めた彼女に笑うと、僕はその耳元に唇を寄せた。
「こんな距離にいるのに触れ合わず、視線すら合わせないなんて。見つめるだけじゃ、我慢が出来ない」
 一瞬だけ周囲を見回し、髪ごと彼女の耳を食む。突然のことに彼女は微かに身を震わせたあと、音を立てて参考書を閉じた。
「みちる。……もしかして、怒っ」
「そういうこと。したいなら早く図書館(ここ)を出ましょう?」
 僕の言葉を遮るように言うと、彼女は返事も待たず帰り支度を始めてしまった。
 そんな彼女の態度に、これはとうとう怒らせてしまったかなと思ったけれど。
 黙々と鞄に詰め込む彼女の横顔はさっきよりも赤くなっていて。僕は安堵の溜息を吐いては微笑った。
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