雪・月・花 -sideM-
「はるか……」
 呟いて、ベッドに横たわる。
 波打つシーツを指でなぞって温もりを探してみる。けれど。温もりや匂いや、行為の記憶はそこに在っても。あなたの姿は何処にも見つけられなくて。
「はるか」
 シャワーを浴びて戻ってきた彼女に、横になったまま呼びかける。
「どうしたんだよ、みちる。そんな、誘うような表情(かお)して」
 ベッドに座り、体を折り曲げて私に口付けをする。彼女はいつもちゃんと髪を拭かないから。その雫が私の頬を伝い落ちて、まるで自分が泣いているかのような錯覚を思わせた。
「はるか。あなたに、会いたいの。でも、どうしたら会えるのか分からないの」
 腕を伸ばし、彼女の首に絡める。何度もキスを繰り返した後でそう言うと、彼女は不思議そうな顔をして、そして笑った。
「会ってるじゃないか。こうして」
 キシ、とベッドが音を立てる。私を組み敷いた彼女は、まるで泣いてるみたいだな、と苦笑すると、自分の雫が作った軌跡を舌で掬った。そのまま、瞼に唇を落とす。
「もっと、会いたいの」
 もっとずっと。探し求める必要のないほどに。思い出す必要のないほどに。
「ねぇ、お願い。はるかで充たして?私の、総てを」
 甘えるような声で言う。決してそんな声色を作るつもりはなかったのだけれど。彼女を相手にすると、どうしても意地悪で我侭になってしまう。でもそれは総て、彼女に対する信頼と甘えから来るのだけれど。
「勿論。喜んで」
 嬉しそうに笑う彼女は、私の体に赤く所有の証を残してゆく。確かに傍にいるとでも言うように。そんなもの、要らないのに。
 ねぇ、はるか。あなたは何にも分かってないわ。だから、こんな残酷なことが出来るのよ。
 与えられる刺激に喘ぎながら。閉じてしまいそうになる目を必死で堪えて彼女を見つめる。じっと。ずっと。
 彼女は応じるように私を見つめ返すけれど。本当は。本当の。私なんて見ていない。
 ねぇ、これは。慰めなんかじゃないの。戯れでもない。移ろうことのない唯一つの想い(真実)なの。
 もっと愛して。壊れるほどに。
 何処までも、どんなに振り払おうとも。あなたが離れないように。
 もっと。お願い。本気のあなたを見せて。


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