深紅の幻
「そっ、んな…」
 与えたはずの傷が自分に降りかかり、僕は腕を押さえた。目の前の奴も同じように腕を押さえている。
「何を驚いている?言ったはずだ。コイツはお前そのものなのだと。コイツを攻撃すればお前も傷つくのは至極当然だろう?」
 僕と同じ形をした者の血液を掬いとり、それを口に運びながら妖魔は言った。下品な笑いを浮かべる。
「さて、どうする?」
 妖魔の声に促されるように偽物は顔を上げると僕に攻撃をしてきた。かわしきれなかった閃光で頬を切られる。同時に奴の頬にも傷は出来たが、奴は何も感じていないかのように眉一つ動かさなかった。
 何故だ?僕の攻撃には顔を歪めたのに。
 微かな違和感。
 そういえば、と。見落としていた疑問に攻撃をかわしながら思考を巡らせる。
 奴が僕の分身であるというのならば。自害するなり、そうでなくても妖魔が奴を殺してしまえば済むことだ。それをしないのは、つまりは。
 腕から流れる血液をすくい、口に含む。次は、頬から流れるものを。
 前者は、無味。後者は、鉄の味。つまり、腕に出来た傷は幻覚。痛みは、視覚からの僕が勝手に感じていたものだったんだ。
 そうと分かれば。
「ワールドォ……シェイキンッ!」
 躊躇うことなく偽物を消し去る。そのことに驚いたのは、今度は妖魔だった。
「自分と同じ姿をしているだけならば、幾らでも殺せるさ。もっと残忍な方法だってな。僕が本物だってことは誰よりも僕が分かっている」
「……ほう。ならばこれならばどうだ?」
「ネプチューン!?」
「ほう、これは驚いた。お前にはこれが同士に見えるのか。お前のもっとも大切な者の姿に見えるようにしたのだがな」
 見えるようにした、と云った。つまりは奴は彼女ではないということ。それなら、躊躇う理由はない。なのに。
「ウラヌス……」
 素早く懐に入り込んだ奴は艶のある声で僕を呼んだ。そのことに少なからず動揺してしまい。
「かはっ」
 鳩尾に一発喰らう。
 何を躊躇う?そもそも本物かどうかすら、僕には無意味なはずだ。使命のためなら例え自分を犠牲にしても、互いを犠牲にしても、と。誓いあったはずだ。
 歯を食いしばり顔を上げる。向かってくる拳をよけると、すれ違い様に奴のにおいがした。それは僕の知っている海の色をしたものなんかでは勿論なくて。
「偽物がっ!」
 背後をとられる前に回し蹴りを喰らわせると奴は短い声を上げて妖魔の元へと吹き飛んだ。
 偽物、なら。容易い。大丈夫だ。
 痛みに顔を歪める奴に、胸が痛む。偽物だと分かっていても、彼女のそんな表情を見るのはやはりキツい。だが、やってやれないことはない。
「こいつ自身に攻撃をさせたのが間違いだったかな。……ならば、これならどうだ?」
「あぁっ」
「なっ…」
 奴が声を上げるとほとんど同時に僕も驚きに声を漏らしてしまった。
 妖魔の手が、彼女の胸に艶めかしく触れている。
「偽物と分かっていてもこんな姿は見たくなかろう?」
 後ろから彼女を抱き、白い首筋に紫色をした舌を這わせる。
 眉間にしわを寄せ、襲う感触に耐える姿は、彼女そのものだった。
「やめろ」
「ならば、その剣を放せ」
「くっ……」
「逆らうのか?」
「はぁっ、あん」
 胸を強く触れられ、彼女が声を上げる。空いていた手は下腹部へと向かっていて。僕はたまらずに剣を落とした。
「よし。……あとは、分かるな?よけるなよ」
 妖魔の手から光の玉が放たれる。それは幾つにも分散して、僕の体を貫いた。
 攻撃力が弱いのは果たして喜ぶべきことなのか。倒れることなく、ただ立ち尽くしては延々攻撃を受け続ける。そのことに。先に焦りを感じたのは妖魔の方だった。
「ちっ」
 舌打ちをし、彼女を手放す。
 振り上げた両手で妖魔が最大級と思われる攻撃を仕掛けてくる。その前に。素早く足元の宇宙剣を拾い上げると、有りっ丈の力を篭めて閃光を複数、放った。
 奇声をあげ妖魔と、そして彼女……いや、奴が消滅する。
 すると、赤黒い風景は無くなり、僕は異空間から現実へと戻された。
 戦闘前は晴れていたはずのそこはいつの間にか雨が降っていて。けれども濡れた服の重さのせいではなく、僕はその場に膝から崩れ落ちた。

「ウラヌス!」
 聴こえてきた、懐かしい声。背中に感じる温みに目を覚ますと、そこには雨に濡れたネプチューンが居た。僕の頭は彼女の膝の上に。
「ネプチューン。どうして、君が?」
「貴女のエナジーが突然途切れたの。だから」
 恐らく、異空間に連れられていたせいだろう。言われてみれば、僕もあそこでは彼女のエナジーを感じなかった。だからなのかもしれない。奴に彼女をダブらせてしまったのは。
 奴。
 そうだ。僕は。偽者であると分かっていたとはいえ、彼女を攻撃した。
「みちる……」
「何?ウラヌス」
「ウラヌス?よしてくれ。今の僕は変身が解けているだろう?いつものように呼んでくれ」
「……ウラヌス?」
 貼り付けたような笑顔のまま、彼女が云う。その瞬間、違和感が僕を襲った。
 抱きかかえられているのに、こんなにも傍にいるのに、海の香りがしない。
「みちる。君は……」
 いいかけたとき。いつの間に奪ったのか、彼女は僕の宇宙剣を高く振り上げ、そして――。


「っは」
 見開くようにして目を覚ます。
 視界に映る風景が見慣れたものだと気づくのに、幾許かの時間を要した。
 腕に感じる重みと温みに、視線を向ける。
「みちる……?」
 そこには、全裸で僕を抱きしめて眠っている彼女がいた。
 恐る恐る彼女に手を伸ばし、抱きしめる。すると、いつもの、僕のよく知っている彼女の香りした。
 安心して、更に強く、彼女を抱きしめる。
「……るか。苦しいわ」
「ああ。起こしちゃったか?すまない」
「ううん。私はいいの。それよりはるか。起きたのなら、お風呂に入ってきたら?お湯は張ってあるわ。体、冷えてるでしょう?」
 彼女の暖かい手が、僕の胸に触れる。その感触に、毛布の中を覗くと僕も全裸であることに今更気づいた。
「公園で倒れている貴女を私独りでは運べなくて。ごめんなさい。海堂に手伝ってもらったの。でも大丈夫。勿論、服を脱がせたのは私よ。その肌を拭いたのも」
「公園で……」
「貴女のエナジーが突然途切れたのを感じて。そのあたりを捜していたら、貴女が倒れていた。雨で体は冷え切っていて。私も、貴女を捜しているうちに雨に濡れてしまっていたから。どうしようかと思ったけど、結局こうして貴女を温めるしかなくて……」
 少し頬を赤くしてそういった彼女は、痛いと自分からあけた距離を、腕を伸ばしてはまたゼロにした。ふわりと石鹸の香りが僕を包む。
 おそらくは僕を寝かし体を拭いた後、彼女はまず自分を温めたのだろう。そうして、その熱を僕に伝えて。
「……ありがとう。嬉しいよ」
「あら。随分と素直なのね」
 髪を梳きながらいう僕に、彼女は耳元で笑いながら言った。少し意地の悪い口調ではあったけれど、その声は安堵に満ちていて。そのことに、僕は安堵した。
「なに言ってんだよ。僕は君の前じゃいつだって素直じゃないか」
 笑いながら、彼女と少しだけ距離をとる。
 僕の動きに合わせるように見つめてきた彼女に、僕は見つめ返すと目を開けたままで唇を重ねた。瞬間、彼女が体を強張らせたのは僕の唇が冷たかったからかもしれない。
「そうだったわね。貴女はいつも、素直に妬いてくれる」
「……うるさいな」
 彼女を組み敷き、もう一度キスをする。彼女はそれに応えてはくれたけれど、その先に進むことは拒んだ。絡めた指を、解かれる。 「みちる?」
「その前に。体、ちゃんと温めてきて」
「君が温めてくれよ」
「はるか。お願いよ」
「……分かったよ」
 余りにも不安げな目で言うから。僕は聞こえるように、ちぇ、と舌打ちをするとベッドから出た。
 素直に従う僕に背後でクスクスと彼女の笑い声が聞こえたけれど、不貞腐れていたから。我ながら子供っぽいとは思いながらも、振り返ることなく少し強めに扉を閉めた。

 シャワーを浴びるためコックを捻る。然程温度は上げていないはずなのに、触れる湯は驚くほど熱くて。それほどまでに自分の体温が下がっていたことに、今更気が付いた。
 確かに。こんな僕と肌を合わせていたら、彼女の体温総てを奪いかねないな。
 不安そうな彼女の目を思い出し、苦笑する。
 それにしても。幾ら自分も温まったとはいえ、こんな僕の体を抱いていて彼女は寒くなかったのだろうか?今頃、僕に体温を奪われた彼女は寒さに震えてやしないだろうか?
 現実が見えてから急に襲われる不安。だけど。まだ彼女の元へは駆け込めない。これは彼女の望みだから。いっそのこと、彼女の方から僕の元へ駆け込んでくれたらいいのに。
「なに考えてんだ、僕は」
 声に出し、苦笑する。
 湯船に浸かると何故か腕に痛みが走った。
「……傷?」
 切り傷。それも、浅いとは言えないものが。僕の腕に出来ていた。
 一体、いつ。どこで。……誰が?
 原因を探して思考を巡らせる。それが、いけなかった。
 蘇る。戦闘の記憶。
 そうだ。僕は、彼女を……。
「殺した」
 違う。そうじゃない。あれはネプチューンじゃない。彼女の姿をした敵だ。そう。敵。
 分かってる。ちゃんと分かっているのだが。彼女の姿のままで奴は消滅していった。勿論、断末魔だって彼女の声色で。
「なんて、ことを……」
 敵の前では、ウラヌスであるときには、抱かなかった罪悪感が。後悔の念が。一気に押し寄せてくる。
「みちる」
 助けてくれっ……。
 言葉には出来ず。僕は何度も彼女の名前を呟くと、そのまま膝を抱えた。
 彼女が長湯を心配して様子を見に来るまで。僕はずっとそうして、動けずに。

「はるか。やっぱり今日はよしましょう?顔色がっ……」
 心配をする彼女の唇を自分のそれで塞ぐ。拒もうと胸を押してくる手を捕まえて、指を絡める。
 助けて欲しくて。ぴったりと体を重ね合わせると、彼女の香りを吸い込んだ。伝わってくる鼓動。
 大丈夫。本物だ。ちゃんと、生きてる。
 雨の中。変身の解けた僕をウラヌスと呼んだネプチューンは何だったのか。妖魔の最期の幻術か。それとも。無意識のうちに抱いていた罪悪感が見せた夢か。どちらにしても、あれは現実ではない。僕の現実は、ここにある。
 だったら、腕の傷は?
「みちる」
 総てを振り切るように名前を呼び、唇を重ねる。強引ともいえるそれに最初は躊躇っていたようだったが、執拗な僕に、彼女もようやく応じてくれた。
 けれど。
「……はるか?」
 今度は、僕の方が拒んでしまっていた。
 駄目だ。今は。彼女を抱けない。僕は彼女を、みちるを、ネプチューンを……。
「ねぇ、はるか。一体何があったの?」
「何って。……妖魔と、戦っていただけさ」
「そこで何があったの?」
 真っ直ぐにけれども微かに揺れている目が、僕を捕らえる。
 永すぎる沈黙の後、先に目をそらしたのはやはり僕だった。
 彼女から離れ、用意されていた服に袖を通す。その間も彼女は僕から目をそらさず、だからと言ってそれ以上の問いかけはしてこなかった。

「……大切な人を、この手で殺してきた」
 服を来た後、脱力したようにベッドに座っていた僕に、彼女は黙って服を着ると部屋を出て行った。
 怒ったのかと思ったけれど、次に戻ってきた時には二人分のホットミルクを手にしていた。その温みを充分に手に染み込ませると、僕は口をつけずにカップを置いた。
 殺してきたんだ、と再び呟き、じっと、の両手を眺める。
 放った閃光は一瞬にして相手を消し去り、血が飛び散ることは勿論無かった。物理的な話をすれば、僕の手は血に汚れることは無かった。それなのに。この手が赤黒く染まって見えるのは何故なのだろうか。
「どういう、こと?」
 カップを置く音の後、ようやく彼女が口を開いた。いや、彼女にしてみれば、ようやく僕が口を開いた、といったところか。
「敵は、幻覚を見せる能力を持っていたんだ。最初は使い魔を僕の姿に見えるようにして戦わせた。けど。目の前にいる相手が僕自身ではないことは分かりきってたから、倒すことは容易かった。そしたら今度は。……使い魔を、僕の大切な人に見えるようにと」
「……プリンセスに?」
「違う。君に、だ。僕には、使い魔がネプチューンに見えたんだ。そして僕は、君を……」
 殺した。
 それは、彼女の姿をした使い魔が妖魔に陵辱されそうになっていたからではなく。紛れもなく、使命という名の下での行動。
 僕は、彼女を殺した。
 見つめる手が、震える。それを止めようと拳を作るけれど、震えは止まってはくれない。
「すまないっ」
 みちる、君はどう思ってる?使命のために君を殺してしまった僕を。
 顔を上げてそう問いかけたかったけれど。僕は汚れた自分の手から目をそらすことが出来なかった。いや、きっと。彼女の目を見ることが、ただ、怖かった。
「……はるか」
 暫くの沈黙の後、優しい声と共に僕の視界に白く細い手が入ってきた。それは僕の両手をそっと包み、優しく撫でた。
「はるか、大丈夫。私はここにいるわ。ちゃんと貴女の隣に」
「……違うんだ、みちる。そうじゃない。そういうことじゃない。僕はっ。……僕はあの時。君が偽者であろうとなかろうと構わないと、思った。使命の、ために」
 君が生きていることは、この腕でもう確かめた。そのことに対する不安は、今は、ない。
 たから、そうじゃなくて。
「僕は、もしかしたら。使命のためなら君すら平気で殺せるのかもしれない。使命のために、大切な人までこの手に……」
 大切なもの。妖魔は、大切な人に見えるようにと言った。だから僕には使い魔の姿が彼女に見えた。けれど。大切な人を手にかけてまで守りたいものって?僕が本当に大切にしたいものって?
「私は、はるかになら殺されても構わなくてよ?」
 僕の拳を優しく解き、指を絡めると、彼女は言った。
 その声の優しさに驚いて顔を上げると、彼女はそれ以上に優しい目で僕を見つめていた。腕の傷が、何故か痛む。
「みちる……」
「それが貴女の成すべきこと、進むべき道なら。私はそれでも構わないわ。ねぇ、はるか。いつか約束したはずよ。私たちは、例えどちらかが命を落としてでも使命を全うすると」
「……違う」
「はるか?」
「違う。そうじゃないんだ。僕が本当に守りたいのは。僕が本当に大切にしたいのはっ」
 君の、はずなのに……。
「どうしてっ。どうして君を、自分を、犠牲にしてまで……。僕は。そんなことのために使命を受け入れたわけじゃないのに」
 君を守りたいと想った。共に在りたいと想った。だから僕はあの時ロッドを手にした。それなのに。
 どうして僕は、そうまでして使命に縛られてしまうんだ?
「はるか。貴女は優しすぎるのよ。誰に対しても。そして、自分にはとても厳しい」
「僕は優しくなんか……。それに、自分に厳しくなんて。君に、甘えてばかりだ」
 彼女の手を握り返そうとしたけれど。その前に手はすり抜け。僕のシャツを脱がすと、腕の傷に触れた。少し強くそこをなぞり、開いた傷口から流れ出した血に舌を這わせる。
「みちる?」
「きっと、はるかの手は自分の血に染まっているんだわ。今まで使命の犠牲になり傷ついてきた自分が、その心が、流してきた血に」
 流れる血を掬い、僕の掌に擦り付ける。ね、と笑う彼女と口付けを交わすと、生臭い鉄の味がした。
「私は。はるかが使命のために私を殺したとしても貴女を恨んだりはしないわ。冷たい人とも想わない。だって、偽者を殺しただけでこんなにも悩み苦しむ貴女だもの。本物の私を殺したら。貴女は、きっと……」
 その先は言わず、今度は彼女から唇を重ねてきた。もう、鉄の味はしない。
「どんな形でも、貴方に一生想われるのなら。私はそれで構わないわ」
 酷い女でしょう?額を重ね僕を押し倒しすと、彼女は笑った。
「私ははるかが思っているような優しい人じゃないわ。はるかの十字架になってでも、生涯想われていたいと平気で思えるほどに歪んでいるの。きっと、私こそが本当に冷酷なのね」
「そんな。僕はっ」
 続く言葉が出てくるのを拒むように、彼女はまた口付けをしてきた。深く舌を絡ませながら、その手は腕の傷を何度もなぞる。
「……私の手も、血塗れね」
 深紅に染まった手を、嬉しそうに見せては笑う。僕はその手をとると、綺麗に舐めとろうとした。けれど、それは拒まれてしまった。
「でも、汚れてるとは思わないわ。だってこれは貴女の血だもの」
 服を脱ぎ、自分の体に僕の血をつけてゆく。僕の体にも。絵でも描くかのように、楽しげに深紅をのせてゆく。僕はそんな彼女を黙って見つめていた。
 すると、彼女は突然手を止め、声を上げて笑い出した。
「みちる?」
「ごめんなさい。駄目だわ、私。どうしても、嬉しくて」
「何が……」
「大切な人」
「っ」
 思いもかけなかった言葉を拾われ。恥ずかしさに動けないでいる僕に、彼女は僕の名前を呟くと隙間もないほどにしがみついてきた。
「み、ちる。止めろよ。今、そんな話。僕はもっと……」
「大丈夫。何があっても。はるかが私を大切だと想ってくれている限り、私は大丈夫だから」
 距離を開け、僕を真っ直ぐに見つめて言った彼女は笑っていたけれど。何故かその目は今にも雫が溢れ出しそうなほどに潤んでいて。
 君が大丈夫でも、僕が大丈夫じゃないんだけどな。なんて。彼女の言葉に心中で呟いた。けれど。
「……みちる。好きだよ」
「私もよ、はるか」
 僕を見つめる彼女が、とても優しく美しく笑うから。多分、僕に殺されるその瞬間でさえも。
 だから、僕は。
「みちるっ」
 だから僕は。このままでいいのだと。こんなにも血に塗れた手で、彼女を抱いてしまうんだ。そのことが、僕の中に在る十字架が重く大きくしているのだと分かっていても。
 それでも、止められない。止めたくない。例え使命のために彼女をこの手にかけたとしても。この想いだけは。その罪と共に生涯、いや、生まれ変わってからも未来永劫背負ってゆこう。だってそれは、彼女の望みでもあるのだから。
 ねぇ、みちる?例え離れ離れになることがあったとしても。使命のために君を犠牲にしたとしても。これだけは、信じて欲しいんだ。
 僕は、君を。誰よりも何よりも深く強く、愛しているんだ。
 愛してる、と、心中で何度も叫び。深紅に染められた彼女の体を舐めとってはかわりに深紅の誓いを刻んでゆく。祈りにも似た、想いを篭めて。


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