古の記憶 |
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何度も、同じ夢を見る。 それはこの地球が果てる夢。そして見たことのない星が果てる夢。 でも、どちらの時も私は恐怖を抱いてはいなかった。どの瞬間も私は決して独りではなかったから。 最愛の人と固く手を握り合い、来世での約束を願って。 ただ、その顔がどうしても思い出せない。声や温もり、香りさえも思い出せるのに。顔だけがどうしても思い出せないの。 もどかしさに、私は街へ出ることが多くなった。 単なる夢だとみんなは笑うかもしれないけれど、私にはそれがどうしても夢には思えなかったから。 だから。同じようにその人も、この地球(ほし)に生まれているのだと。どうしてだったのか、そのときの私は疑いもしなかった。 視界に映る人々の中に、必死であの人の面影を探す。けれど、見つからなくて。 そんな時、私は唯一の友人であるエルザに大会の応援に是非来て欲しいと言われた。 彼女だけは、私の話を笑わずに聞いてくれて。風の香りのする人に心当たりがあるのだと教えてくれた。 そして自分はその人に勝ちたいのだと。だから、応援に来て欲しいと。 そうして、私ははるかに出会った。正確には、見つけた、というべきなのかもしれないけれど。 懐かしい想い。確かな既視感。でもそれは単に天王はるかとう人間に惚れてしまっただけなのかもしれないとも思った。 いや、実際そうだったのだろう、風をまとうように走る姿に、私は一瞬にして心を奪われて……。 結局エルザは負けてしまったけれど、私はそれどころではなかった。 エルザもそれに気づいてくれたようで。休憩時間に、もういいから、と優しく言ってくれた。 天王はるかと話がしてみたい。それは彼女があの人かどうかを確認するためなんかではなくて。純粋に話がしてみたいと私は思っていた。 こんな気持ちは初めてだった。誰かに興味を持つなんて。興味を抱かれたことはあるけれど、自分が、誰かに興味を持つなんてことは初めてだった。 だから少し浮かれていたのかもしれない。私は急いで応援席から競技場へと駆けていった。 けれど。近づく私に彼女は気づかず。ただ、颯爽と隣を通り過ぎて……。 それから私は彼女の、そう、フリークと呼ばれるものになった。 調べてみると彼女はスピードを競う業界では有名で、幾つもの雑誌に載っていた。 それを購入しては、切り取ってファイルにする。 ほんと、これじゃまるでただのファンだわ。そんな風に思い自分を笑っては、だけどそのファイルを何度も何度も眺めていた。 そして彼女を見る度に訪れる、淋しい懐かしさに胸が酷く痛んだ。 好き。彼女が、天王はるかが、好き。どうしようもないくらいに好き。 エルザの試合を観に行っては、彼女ののレースを観に行っては、風のように走る姿に想いはどんどん膨らんで行く。 彼女があの人であることは、懐かしさが呼び起こした夢の続きが確信に変えてくれたけれど。そうでなかったとしても、私は彼女を好きになっていたと言い切れるほどに、想いは強いものになっていた。 話がしたい。その目に私を映して欲しい。 ねぇ。あなたは本当に私の事を覚えていないの? 突然現れて、あなたと私は運命で結ばれているの、なんていったら。あなたはどう思うかしら。 馬鹿げた話だと一笑する?それとも、思い出してくれる? でも、思い出したところでなんだっていうのだろう。想いが伝わったからって。 私は女で、あの人も女で。変な人だと思われるのが落ちだわ。きっと。 でもそれなら。神はどうして私にだけ古(いにしえ)の記憶を残しておいたの? 永遠に結ばれることがないというのなら。同じ地球に、同じ時代(とき)に生まれたのは、何故? そして、こうして出会い惹かれてしまった理由を、誰でもいい。誰か。教えて……。 |
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